『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(いわむらかずお 作)は、山奥の最終列車に乗り込んできた動物たちと、人間の「ぼく」のお話です。動物たちに対する人間のエゴという、自らの生活を顧みるきっかけになるテーマが描かれます。産経児童出版文化賞受賞作(1986年)。
最終列車に続々と乗り込む動物たち。その目的地は?
小さな田舎町を走る一本のローカル線。気ままな旅をつづけていたぼくは、下りの最終列車に乗り込みました。足元を温めるぽかぽかとした暖気に、つい眠り込んでしまうと……。目が覚めたときには、車両にはぼくひとりになっていました。と思ったら、うしろの座席からひそひそと話す声が聞こえてきます。
なんと、そこにはねずみが4匹座って、熱心に話し込んでいるではありませんか。その後も、駅に到着するごとに、いのししや、ちゃぼとくじゃくの夫婦、くまや猿などが乗り込んできて、話に加わります。
ぼくが盗み聞きをしていると、どうやらみんな、同じ寄合に参加するために電車に乗っているらしいのです。その目的は「おれら 生きもんが、みんなで ちえだしあって、これからのこと 考えてみっぺえちゅうこと」。ふだんの暮らしで、人間に虐げられている動物たちが、人間に立ち向かうべきかどうかを話し合うのだといいます。
いのししは、人間の畑でいもを盗んだ弟が殺されてしまったことをみんなに聞かせます。身を潜めて聞いていたぼくは、ここに人間が紛れ込んでいることがばれてはいけないと、コートの襟に顔を埋めて、できるだけ気配を消すのですが……。さて、最終列車の行き着く先は、どんなところなのでしょうか。
自然に生きる動物たちへの優しいまなざし
この絵本の大きな特徴は、絵のページと文字のページが、交互につづいていくこと。文字のページは、黒地に白抜きの文字が並び、なにやら不穏な空気が漂います。ページをめくるごとに、ぼくの不安が煽られていくさまを読者もいっしょに追うことができます。
作者のいわむらかずおさんは「14ひきの」シリーズ(童心社)や「タンタンのえほん」シリーズでおなじみの絵本作家です。生まれ育った杉並の雑木林を原風景として、雑木林や里山に生きる動物たちの絵本を数多く描いてきました。本作も、絵本制作のために移り住んだ栃木県・益子のあたりを通るローカル線を舞台に描かれています。
「14ひきの」シリーズなど、ほのぼのとした動物の営みを描く絵本とは一線を画す本作ですが、自然や動物たちに対する優しいまなざしという、作品の根底に流れるものは同じなのです。