ミステリーを読むとき、「自分もトリックをあばいてみよう!」と考えながら読む人は多いと思います。「少年探偵ブラウン」(ドナルド・ソボル 作/花輪莞爾 訳)は、読者も一緒に謎ときに参加できるシリーズ! 「ミルキー杉山のあなたも名探偵」にはまった読者の、次のステップにもおすすめです。小学校中学年から。
ブラウンの推理力は、警察官の父も頼る凄腕!
このお話の舞台は、アメリカのアイダビルという小さな町です。アイダビルは、ごく普通の町なのですが、一つだけほかの町とちがうことがありました。それは、この町でおきた事件の犯人で、警察の手から逃れられた人はだれもいないということ!
実は、それに一役買っているのは、この町の警察署長……ではなくて、その小学5年生の息子、ロイ=ブラウン! ロイは、その頭脳明晰さ、博学さから、町の人に「百科事典」というあだなで呼ばれている少年なのです。
ブラウン署長はいつも夕食のとき、その日あった事件について、ロイに相談するのがお決まりになっています。ロイはじっとその話に耳をかたむけ、(だいたい)前菜のスープを飲みおわる頃には、その事件は解決、というわけです。
お父さんを手伝っていることはだれにも秘密ですが、こまっている人を助けたいロイは、自宅の車庫にこんな看板を出して、小さな探偵事務所を開いています。
ブラウンたんてい事務所
ローバー通り 13ばんち
所長 ロイ=ブラウン
どんな事件でもひきうけます。
たんてい料金━━━1日25セント
ほかに実費をいただくこともあります。
さて、今日はどんな事件の依頼が、ロイのもとにやってくるのでしょうか?
読者も推理に参加! 犯人のついた“うそ”をみやぶろう
全5巻からなるこのシリーズは、各巻に約15の事件が収録されています。
少年探偵ブラウンの推理の基本は、事件にまつわる人からの「聞き取り調査」。なんといっても、この本のおもしろいところは、ロイが答えをいう前に、読者にも考える時間が与えられていることです。ロイが「あいつがうそをついている」など結論を出したところで、一緒に納得できていれば、あなたは名探偵! わからなければ、最初にもどって、それぞれの証言をもう一度注意深く読んでみましょう。ひそんでいる矛盾やうそを、みやぶることができるでしょうか?
いくつかのエピソードを読むと、だいたい「このあたりがあやしい!」というところがわかってくると思います。ぜひ、あせらずじっくり読みかえして、考えてみてくださいね。
おためし! 事件解決に挑戦してみよう!
では、最後に1つ、事件解決にトライしてみましょう! 「少年探偵ブラウン(1)」から、「ピストル強盗事件」の一部を抜粋します。
アイダビルで銀行の強盗事件が起きました。ところが、覆面をした犯人は、逃げる途中、彼と同じように黄色いふくろをもった目の見えない老人トムとぶつかり、しばし揉み合います。強盗はそのあと無事つかまりましたが、強盗がもっていた黄色いふくろにはお金が入っておらず、逮捕の決め手がありません。
ロイは、トムが犯人と揉み合ったとき、相手の顔に手をふれていれば、顔の特徴を覚えているのでは? と考え、トムの部屋をたずねます。
サリーとロイは、うすぐらくて、ギーギーきしむかいだんをのぼって、二階へあがり、二一四号室のドアをノックしてみました。
へんじはなく、しんとしています。
「みて。ドアにかぎはかかってないわ。あけてみる?」
サリーがそっとささやくと、ロイはうなずきました。
サリーがさっとドアをおしあけると、へやのなかがまるみえになりました。
とてもせまくて、みすぼらしいへやでした。むこうのかべぎわに、てつのベッドがおいてあり、まくらもとの、ひろげたままのアイダビル新聞を、小さなスタンドの光がてらしています。
ふいに、つえの音がろうかにひびきました。コツ……、コツ……、コツ……。
トムが、かいだんをのぼってきたのです。そして、サリーのうしろにくると、たちどまってたずねました。
「だれか、そこにいるのかね?」
それから、うれしそうにいいました。
「ながいことわしをたずねてくるものはおらんかったよ。こんやもお客がくるなんて思ってもみなかった。あんたたちふたりがきてくれてうれしいよ。はいりなさらんかね?」
ところが、ロイは、これを聞いてあわてて階段をかけおりました。
「どうしてそんなにあわてたの? わたし、ひるま銀行をおそった男をたしかめられるかどうか、あなたがトムにきくんだと思ってたのに。」
少年たんていブラウンは、こたえました。
「あいつにきいたら、たいへんだったよ。たしかにあいつは、強盗をしっているさ。だってトムは、強盗のなかまなんだからね。」
さて、この短い出来事から、なぜロイは、トムが強盗の仲間だと思ったのでしょう? トムはあるうそをついているみたいですよ。ぜひ考えてみてくださいね!
*イラスト:桜井 誠