ジョージは、ママと高校生のお兄さんと3人で暮らす、10歳の小学生です。ジョージの毎日は平和なようにみえて、実は苦しいことがたくさんありました–––––。
『ジョージと秘密のメリッサ』(アレックス・ジーノ 作/島村浩子 訳)は、トランスジェンダーの子を主人公に、その気持ち、周囲の目や反応を描く物語です。
自分の気持ちを押し殺すジョージ。「自分以外の人間になりたい」
ジョージは10歳の男の子。周囲の誰にも言えないけれど、自分が男の子の体でいることが嫌でたまりません。好きなのは、おしゃれな女の子が載っている雑誌。ママにもお兄さんにも内緒で拾ってきた女の子向けのファッション誌は、ジョージの友達です。いつもたんすの奥にしまいこんで、家に誰もいないとき、バスルームでその雑誌を開くのです。
雑誌をみているときは、とても幸せな気持ちなのに、それを“男の子が見る大人用の雑誌”と勘違いして、お兄さんはにやにや。
「それでこそ、おれの弟だ! やらしい雑誌を見るようになるなんて、大きくなったな。」
そんなお兄さんの何気ない言葉も、ジョージの心を重くするのでした。
学校行事で訪れたチャンス
そんなジョージの心を明るくするイベントが近づいていました。それは、学校での劇の発表会。『シャーロットのおくりもの』という本を、生徒みんなで劇として上演するのです。
『シャーロットのおくりもの』は、日本語版も刊行されています。(E.Bホワイト 作/ガース・ウィリアムズ 絵/さくまゆみこ 訳 あすなろ書房刊)
物語は、心優しく賢いクモの女の子・シャーロットが、殺されてしまう危機にあったブタの男の子ウィルバーを助けるというもの。シャーロットの勇気や聡明さに憧れるジョージは、なんとしてもシャーロットの役をやりたいと願います。また、女の子の役を演じることで、自分が女の子であることをわかってもらえるかも……という、密かな期待もありました。
でも、オーディションで見事なシャーロット役を演じたジョージに、担任の先生は困惑した顔で言います。「シャーロット役をあなたにするのは、むずかしいわ。お客さんがどんなにまごつくか、考えてごらんなさい」–––––。
親友の女の子ケリーは、ジョージはシャーロット役にぴったりだと太鼓判を押してくれますが、それもジョージの素晴らしい演技に対する評価で、「舞台で男が女を演じるのは、むかしからやられていたことなんだよ。」「おしばいって、要は、ふりをするってことじゃん。」と、ジョージの真意には気がついていません。
果たしてジョージは、シャーロットの役を演じることができるのでしょうか。そして、大好きなママやお兄さん、親友のケリーに、自分の心をうちあけ、理解してもらうことはできるのでしょうか。
つらい心をあたためる、希望の物語
ジョージの気持ちに寄り添って描かれるこの物語を読んでいると、本当の自分を家族にもうちあけられないつらさに、深い共感を覚えます。親友にさえうまく伝えられないもどかしさには、息苦しさを感じるほどです。
でも、どこかには必ず、気持ちを理解してくれる人がいます。ジョージの場合は、『シャーロットのおくりもの』の劇がそのきっかけとなり、親友のケリーにも、ママやお兄さんにも、気持ちをうちあけることができました。
実際にトランスジェンダーで悩むお子さんにはもちろん、別のかたちで人にわかってもらえないつらさを抱える子、身近にLGBTの方がいる人など、たくさんの方に読んでもらいたい一冊です。