発達障害のひとつ、アスペルガー症候群。「アスペルガーの心」(全3巻)は、アスペルガー症候群のフワリちゃんが小学4~6年生のときに描いた作品。自分の特徴を前向きにとらえ、そのことに誇りをもち、前をしっかり見据えて生きる女の子のメッセージです。
アスペルガー症候群って?
アスペルガー症候群とは、「自閉症スペクトラム障害」の一つです。社会性、コミュニケーション、想像力において『普通』とはちがう個性的な特徴を持っています。主な特徴としては、自分語を作る、常同運動、パニックなど。フワリちゃんの場合、小学校生活において一人一人の個性を活かす「日本の特別支援教育」というアプローチにより、自己理解・他者理解など多くの学びを得て心豊かに生きる力が育まれました。
「アスペルガーの心」の3冊で、フワリちゃんは自分自身に向き合って心の声をきき、ときに客観的に自分や周りをみつめて、アスペルガーの子たちがどのような特性をもっているのか、どのように接してもらえるとうれしくて楽かということを、絵と文章で伝えています。これができるから、こちらも同じようにできる、と私たちは考えがちですが、この本を読むとそのように一概にわけられるものではない、ということがわかります。
巻がすすむにつれて、表現力ゆたかになってゆくフワリちゃんの言葉に導かれ、さまざまな方向からアスペルガーを理解するための、またそれを超えてさまざまな人とつきあうための一助をあたえてくれます。
アスペルガーの特徴について知る3冊
わたしもパズルのひとかけら
第1巻の『わたしもパズルのひとかけら』では、フワリちゃんが好きなこと、苦手なこと、また苦手なことでも、どのようなアプローチだったら受け入れられるか、ということが描かれています。たとえば……
・一度にたくさんのことを話されたら、しつこいと思ってしまう
→紙などに絵と字で書いてもらえると、よくわかる
・これから何が起こるかわからないとき、不安な気持ちになってしまう
→事前に口頭や紙などで何が起こるか説明してもらえると、うれしくて楽な気持ちになる
・うるさい音に弱い
→しずかにあそんでほしい
などなど。一工夫をすることで、双方に気持ち良くコミュニケーションがとれることを教えてくれます。
パニックダイジテン
アスペルガーの大きな特性のひとつである「パニック」について明快につづった1冊。どのようなときにこの症状が出るかは人によって異なりますが、フワリちゃんの場合は「ダメ出しされたとき」「からかいを受けたとき」「わからないことがたくさんあるとき」などであることがあげられています。
我慢できそうに思えることでも、アスペルガーの人たちにとっては「無理やり」させられると「パニックをひきおこし、そうなることをとめられない、苦しいこと」であることを、さまざまな状況をたとえにして切実に伝えます。
きんじょのらぶちゃん
『きんじょのらぶちゃん』は、フワリちゃんの生き方に影響をあたえ、尊敬している大人のひとりである、先生について書いた1冊です。読み進めていくとわかる、フワリちゃんと似た特徴をもっている先生。その破天荒な行動も、子どもたちを底ぬけの愛情であったかく包みこむすがたも、まるごと愛するフワリちゃんの大きな愛が描かれています。
おもに自己分析で構成されていた最初の2冊とはちがい、他者をどのように理解していくか、ということが描かれる、フワリちゃんの成長もみられる3巻目です。
アスペルガーの子たちも読みやすいつくり––––読書バリアフリー法に先がけて
2019年6月に「読書バリアフリー法」が制定され、視覚障害、発達障害、肢体不自由などの障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な方に、配慮した読書環境の整備が推進されています。
「アスペルガーの心」は、これより前の2012年に刊行されたものですが、同じアスペルガーの子たちが読みやすいものになるようにと、フワリちゃんのお母さんのリサーチや、フワリちゃんの意見を尊重し、レイアウトに気をつかっています。
- 書体(文字の形)→くせのないわかりやすい形。明朝ではなくゴシック系がよい。
- 文字の組み方→字と字の間は少しだけあける
- 文字の色→黒だとコントラストが強すぎて読みにくいので、茶色に
- 文字のバックには、少し色をしく。でないと読まずに飛ばしてしまうため。
- デザインで使う色はフワリちゃんの色のイメージがあるので、参考にしてほしい
……などなど。ふだん何気なく読んでいる本などでも、アスペルガーの方たちにとっては、さまざまなバリアがあるのですね。
フワリちゃんが教えてくれること
フワリちゃんの特性は、アスペルガーの子すべての特性ではありません。大きな特徴は似ていても好きなもの、苦手なもの、パニックをおこすものは、ひとりひとり違うようです。つまり、その人その人個人の特性を理解することが大切です。
人間は、誰一人としてまったく同じではありません。そのように考えると、「アスペルガー」という症状でくくられていてもいなくても、ひとりひとりの人と向き合い、お互いに丁寧に付き合い、その人のことを知り、理解しあうことが大事だということに気づきます。
広い視野で、ものごとをみつめることを教えてくれるフワリちゃんの本。ぜひアスペルガーの方と出会ったとき、コミュニケーションでつまずいたときに、開いていただけたらと思います。
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アスペルガー症候群の女の子が描いた絵本「アスペルガーの心」