「勉強しなさい」「片付けなさい」親からの言葉に誰しも一度は反発する気持ちを抱いたことがあるのではないでしょうか。『いいたいことがあります!』(魚住直子 作/西村ツチカ 絵)の主人公、小学6年生の陽菜子もそのような一人。納得いかない気持ちを抱えながらもしぶしぶ従っていた彼女ですが、あることをきっかけに変わりはじめます。
小学校高学年ごろから読める物語ですが、親も子どもと一緒に読んでみると、心にぐさっとささるセリフがつぎつぎと登場し、はっとさせられることでしょう。かつて子どもだったときの気持ちを思い出せる1冊です。
「
小学6年生の陽菜子は、お母さん、お兄さんの3人暮らし。お父さんは単身赴任中。中学受験を控えていますが、勉強よりもイラストを描く方が好きな陽菜子は、塾へいくことにあまり気乗りがしません。
ここで、陽菜子を悩ませている、お母さんの小言を聞いてみましょう。
「こんな時間に優雅にお昼寝だなんて、もちろん、やることはやったんでしょうね。」
いやみな言いかただ。ようするに塾の宿題はやったのかときいているのだろう。
(中略)
「もっと優先順位を考えなさいっていってるの。それと、洗濯物はもう片づけたわよね?」
はっとした。勉強と同じくらい、絶対にやるようにいわれているのが家事だ。
だいたいこれからやろうとしていたときに声をかけてくるのが、お母さんという存在です。さらに、「野球部があるから時間がない」という兄は何も言われず、陽菜子ばかりが家事をさせられるという不公平さも、不満を増幅させています。
ころが、多忙だった母親の代わりに家事や妹の世話をして、勉強も頑張り良い大学に入ったお母さんの発する言葉には、隙がなく……たまに反論してみても中途半端に終わってしまい、いつも最後はお母さんの言う通りになってしまうのでした。
「わるい親は、子どもを見ていない」手帳にかかれた文章
そんな陽菜子のまえに、ある日とつぜん、見知らぬお姉さんが登場します。あだ名をスージーというその人は、陽菜子のごちゃごちゃとして言葉にならない母親への気持ちを代弁してくれ、陽菜子は徐々に影響を受けていきます。とくにスージーがくれた手帳にかいてあることに、陽菜子は衝撃をうけます。
わるい親は、子どもを見ていない。
(中略)
親は自分が絶対に正しいと思いこんでいる。
自分の子どもだから、絶対にわかりあえると信じている。
でも、正しさはひとつじゃない。
わかりあえるのも、相手の気持ちを大事にしたときだけだ。それは他人同士のときと同じだ。
わたしは、親に支配されたくない。わたしは、わたしの道を行きたい。
ときたま現れるスージーの存在に支えられながら、「わたしは、わたしの道を行きたい。」という言葉をお守りのようにして、陽菜子は徐々にお母さんへの態度を変化させていきます。を伝えはじめる陽菜子と、自身の経験をもとに「陽菜子のための思って言っているの」というお母さんの衝突がつづくのですが……。
いろいろいいたいことがある、女の子のための物語
陽菜子とお母さん。それぞれの立場で、「女だから」の我慢を抱えて生きてきたふたり。そんな、大なり小なり胸の奥にある違和感––––まさに、「いいたいことがあります!」という気持ち––––を、すっきりとテーブルの上に並べてくれる、爽快感がある物語です。
自分の意志を主張しながらも、相手の気持ちや立場にも想像力を働かせる。、皆が少しずつバランスをとることで、よい関係性が生まれるのかもしれません。
物語を読んで、自分の感じ方を意識しながら、自分らしい生き方、そして、家族との関係について考えてみる機会にしたいですね。