とある小学校で図工教師をする「ぼく」が出会った、服を着て人間の言葉を話す〈学校ネズミ〉。学校ネズミは、語り継がれてきた数々のふしぎな話をのこすため、毎週「ぼく」のところへやってきて、ひとつずつ話を聞かせてくれる––––。
2019年で作家デビュー40周年を迎える岡田淳さん。そのファンタジーワールドの原点のひとつ、1980年初版の『放課後の時間割』をご紹介します。
「毎週月曜日、場所はここ。こいつは、あんたとわたしの放課後の時間割ってやつだ。」
「ぼく」は、とある小学校で図工教師をしています。ある日「ぼく」は、ふしぎなネズミに出会います。なんとそれは、服を着て、人間の言葉を話すネズミでした! 驚きをかくせない「ぼく」に、ネズミはこう言います。
学校ネズミたちは生まれてすぐ、1年生の教室で1年生の勉強をはじめ、6年間勉強して卒業したら、おのおの居場所を決め、音楽室に住む「音楽室ネズミ」になったり、1年生の教室に戻って住む「1年生ネズミ」になったりするのだといいます。彼らはお話を語ることが大好きで、いつも話を披露する会を開き、年とったネズミは、若いネズミたちに最高のお話を語り継いでいくのだそう。
©️岡田淳
でも、「ぼく」が出会ったこの学校のネズミは、不幸な事故があってから仲間たちがいなくなってゆき、1匹だけの学校ネズミになってしまったのでした。
そんな彼は、仲間の〈学校ネズミ〉たちのお話を、誰かに語り継ぎたいと思い、「ぼく」に聞いてほしい、と持ちかけます。
「よし、これできまった。(中略)毎週月曜日、場所はここ。あんたの仕事がおわったころにやってくるよ。そうだ、こいつは、あんたとわたしの放課後の時間割ってやつだ。」
こうして「ぼく」と学校ネズミは、このふしぎな約束をしたのです。
学校ネズミが語る14のお話
それからというもの、学校ネズミは毎週月曜日に約束通り現れて、「ぼく」にさまざまなお話を聞かせてくれます。
1年1組のサッちゃんは、ある日の授業中、とつぜんしゃっくりがとまらなくなってしまいます。それを笑っていた隣の席のユキオくんにもしゃっくりは伝染し、2人を注意した担任の先生にも、クラスの全員にも、しゃっくりがうつってしまいます。やがて、様子がおかしいと見にきた隣のクラスの先生にうつり、そこから隣のクラスの生徒にもうつり、しゃっくりの伝染はどこまでも広がり……!?(しゃっくり ––––1年生ネズミの話)
朝を迎えるたび、図工室がきれいになっていくのがふしぎでならない図工の先生。図工室でうとうとしてしまった日、ピチャピチャ、ピチャ…という音に目がさめ、机をなめているネコを発見します。それは「色ネコ」。白い絵の具が飛び散った机をなめて真っ白に、えんぴつけずりのすすをなめて真っ黒に、と、体の色を変えながら、あちこちの色をなめてきれいにしていたのです。先生はよごれた物を置いておき、なめてきれいにしてもらって喜んでいたのですが、やがて困ったことになり……。(図工室の色ネコ ––––図工室ネズミの話)
それぞれの話を学校ネズミは、自分が語り継がれたとおり、いろんな口調で話してくれます。小さな子に聞かせるような調子のこともあれば、物語の文章のように淡々と語ることもあります。読んでいると「ぼく」と同じように、読者も学校ネズミに話してもらっているような気持ちになります。
学校ネズミと「ぼく」の日々のやり取りもはさみながら、学校ネズミが語る、14のお話が入っています。
本当にあったのかも? わくわくさせてくれる、岡田淳ワールドの原点
岡田淳さんは『放課後の時間割』のほかにも、小学校を舞台としたファンタジーを多数手がけています。岡田さん自身が図工教師をつとめていたこともあり、この本には、もしかして本当にあった話なのかも、と思わせてくれる魅力があります。
現実と少しはなれたふしぎなお話なのに、そう思ってしまうのは、岡田さんの文章の力でしょうか、それとも〈学校ネズミ〉の語りの力でしょうか?
作家デビュー2作目であり、岡田淳ワールドの原点のひとつとなっているこの本。ぜひ手にとって、その魅力にふれてみてくださいね。