「上の子のわがまま」と思われる子どもの言動に頭を悩ませるお父さんやお母さんにたくさん出会ってきました。きょうだいが生まれるときに、上の子が2歳から4歳くらいだと、反抗期も重なるので、たしかに大変だと思います。
赤ちゃんにミルクを飲ませているときに「これ、読んで!」と絵本をもってきたり、寝かせようとしているときに、いたずらをしたり。ひとりで靴をはけるはずなのに、「できない!」と言い出すことも。下のきょうだいが持っているものをとってしまうことも、日々あるでしょう。
「もう!」とイライラしてしまうお父さんやお母さんたち。その姿は、わたしが保育をはじめてから40年以上たっても、まったく変わらずくりかえされている気がします。
園でも、大きい子が小さい子のものを強引にとってしまうことがよくある。
わたしがつとめている園は異年齢で過ごすことが多いので、年長さんや年中さんたちが、0歳や1歳に優しく接してくれているほほえましい姿をよく見ます。
しかし、いまの園に限らず、子どもたちの生活の中では、大きい子が小さい子にいつも優しくしているとはかぎりません。
大きい子が小さい子の持っているものが欲しくて、強引にとっていったり、反対にこっそり持っていったり。まだ言葉が話せない子に「貸してね、いい?」とたくみな言葉で取り上げることも。
こんな感じで、優しく接しているばかりではありません。だからといって、その子たちが優しくない、乱暴な子なのかと言ったらそんなことはなく、ほかの場面ではとても優しかったり、「ああ、いい子だなあ」と思う場面もたくさんあります。
わたしは、「あの子は乱暴だから」「あの子は優しくないよね」というような、決めつけは絶対にしないようにしてきました。
子どもが自分のことを一生懸命主張するのには、ちゃんと意味がある。
わたしは、今つとめている保育園で、子どもたちの写真を撮って、園の玄関に毎日の保育内容を開示しようと試みています。写真を撮るのは園長のわたしなので、カメラを通して子どもたちの生活を見ています。
子どもたちを見ていると、他の子がやっていることや、先生たちの言動をじっと観察しているようすに気がつきます。そんなとき、おとなとして身が引き締まる思いがします。どんなに小さな子でも、ひとりの「人」として、ちゃんと自分を持って生活しているのだと感じます。
子どもが自分を一生懸命主張するのは、赤ちゃんが泣いてさまざまな大切なことを訴えるのと同じように、ちゃんと意味があるような気がするのです。
つい、1、2年前までは「おなかがすいたのかなあ」「おむつぬれたかなあ」と優しく言ってくれていたお母さんやお父さんが「はやくしなさい!」「自分でやれるでしょ!」「なんで片付けられないの!」と、指示したり、怒ったりしてしまうようになる。たしかに、子どもたちと付き合うのは本当に大変ですよね。
100人いたら100通りの子育てのしかたがあり、ひとつとして同じものはない。SNSやネットで調べると、(この「絵本の相談室」をふくめ)さまざまなことが書いてあるのだけれど、その通りにしてもうまくいかないことがあるかもしれません。
でも、上の子の思いをちゃんときいてあげてほしいなと思います。その場では無理でも、下の子が寝てからきくのもいいですね。
子どもたちは、お父さん、お母さんの気持ちをわかってくれるはず。そして、「大事にされた」と子どもが感じられることが、その子が生きていく上で力になるということを、まわりのおとなは頭のかたすみに置いておけるといいですね。そんな気持ちを持ちながら、大変な子育てをやりくりして楽しんでください。お父さんやお母さんが無理なら、おじいちゃんやおばあちゃん、ほかのおとなとの関わりでもいいと思います。
「きょうだい」をテーマにした絵本はたくさんある!
『ノンタンいもうといいな』(キヨノサチコ・作 絵、偕成社)
ノンタンの妹タータン。妹はかわいいけれど、一緒に遊んでいたぶたさんに積み木を投げてしまい、ノンタンとぶたさんは外へ出てしまいます。それでもノンタンのそばにくるタータンに「あっちいけ!」と言って、タータンに構わず遊ぶノンタン。でも、タータンがいなくなっていることに気づいて、大慌て。タータンを見つけたノンタンの目に一粒の涙が描かれていて、そのホッとした気持ちが伝わってくる。妹はかわいいけれど、まだまだ友だちと遊びたいよね。
『ティッチ』(パット・ハッチンス・作 絵 、いしい ももこ・訳、福音館書店)
ティッチは小さな男の子で、兄さんのピートと姉さんのメアリがいる。ピートとメアリが大きな自転車を持っているのに、ティッチは三輪車。ピートとメアリは高くあがる凧を持っているのに、ティッチは風車。3人の表情が豊かに描かれていて、読んでいると、少しティッチがかわいそうになる。展開はシンプルだけど、小さいティッチも大事な存在であることが伝わってくる。50年近くも前に出版された本なのに、すてきな作品です。
『わがままいもうと』(ねじめ正一・文、村上康成・絵、教育画劇)
学校から帰ってきたお兄ちゃん。病気で寝ている妹が「アイスクリームを食べたい」と言うので、お兄ちゃんは100円玉を持ってバニラアイスを買いに行く。妹から「バニラじゃなくてイチゴが食べたい」と言われ、今度はイチゴモナカを買いに。「イチゴモナカは、口の中にくっつくからいやだ」と言う妹のために、また商店街に走るお兄ちゃん。この絵本のお兄ちゃんは妹にとても優しい。おとなが上の子にあれこれ言わなければ、この絵本のように「妹がかわいい」ってなるのかもしれない。こんなお兄ちゃん、わたしも欲しい!
『フランシスのいえで』(ラッセル・ホーバン・作、リリアン・ホーバン・絵、松岡享子・訳、好学社)
妹のグローリアが生まれてから家のいろんなことが変わってしまったので、フランシスは家出をすることに。リュックにお金や食べものをつめこんでいきます。出ていくフランシスにお父さんが「どこへ いくんだい?」ときくと「しょくどうの テーブルのした」と答えるフランシス。「おまえが いなくなると、さみしくなる」とお父さんもお母さんも言います。テーブルの下にいるフランシスに聞こえるように「あのこは、ほんとに うたが すきでしたものねえ」と話をするお父さんとお母さん。この会話がとってもすてきで、フランシスは自分も大事にされていることを確認できたのだと思う。お父さんとお母さんの会話にいろんなことを気づかされる1冊。なんといっても、フランシスの子どもらしさが大好きです。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。