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作家が語る「わたしの新刊」

瀧羽麻子さん新刊は小学5年生が主人公。未知の大人との出会いから始まるやさしい成長物語

『うさぎパン』『左京区七夕通東入ル』など、文芸書で活躍されている瀧羽麻子さん初めての、子どもたちに向けた物語が誕生しました。引っ込み思案の小学5年生の千春が、ふとしたことから出会った、修理屋のおじさん。学校でも家でもないその場所でのおじさんとの交流が、少しずつ千春の内面を変えていきます。

ヒントとなったのは、誰もが知る、あの名作映画なんだとか。瀧羽麻子さんに、作品への思いを伺いました。


たまねぎとはちみつ(今日マチ子 絵)


––––今回、初めての児童書となりますが、以前から児童書を書きたいという思いがおありになったのでしょうか?

長く一般書を書いてきて、あまり児童書を書くという発想はありませんでしたが、数年前に短篇アンソロジーの依頼をいただいたご縁で、長篇にも挑戦させていただくことになりました。わたしは幼少時から本が大好きで、物語からいろんなものを与えてもらったと思っているので、変な言いかたですが、恩返しのような気持ちもあります。子どものときに本を読む習慣がつくかどうか、本を好きになれるかどうかで、ちょっとおおげさかもしれませんが、そのひとの読書人生が決まる気がします。そういう意味で児童書は、本の世界への入口として、重要な役割を担っているんじゃないかと。自分がそこにかかわれるのは、光栄に感じる半面、緊張もありました。

––––これまでの作品は、大学生や社会人など、いわゆる大人が主人公でしたが、今回児童書を書くうえで特に意識されたことはありますか。

児童書の初心者として不安もあり、担当編集者の方に質問したのですが、わたしの場合は作風も文体もいつもどおりで特に問題ないと言っていただけてほっとしました。ただ、これは児童書も一般書も同じですが、小説を書く上では登場人物と寄りそう必要があります。小学5年生の主人公がどんな気持ちでどんな行動をとるのか、しっかり想像するように心がけました。

––––ストーリーの構想はどのように得たのでしょうか?

担当編集者の方とはじめて打ち合わせをしたときに、ふたりとも映画が好きだとわかって、「ニュー・シネマ・パラダイス」みたいな物語はどうだろう、という話になったんです。あの映画では、主人公の少年が映写技師のおじさんと知りあって大きな影響を受け、成長していきます。同じように、未知のおとなとの出会いによって世界が広がっていく、というのを基本軸にしようと決めました。あと、一般的な小学生の日常って、家庭や学校や習い事あたりで完結しているかと思うのですが、それ以外の場所での出会いがあるとおもしろいかも、と。一方で、友だちどうしのけんかや親への反発など、小学生にとっては身近なエピソードも盛りこんだつもりです。

––––千春や俊太にとって、親でも学校の先生でもないおじさんという相談相手がいること、うらやましく読みました。瀧羽さんも幼いころ、近くに「おじさん」のような大人がいたのでしょうか。

小学六年生のときに通っていた塾の講師の先生には、とてもお世話になりました。当時のわたしはちょっとした反抗期で、生意気でかわいげのない子だったんですが、ていねいに向きあって下さいました。とにかく子どもあつかいされなくて。「このひとはなんだか違う」と子ども心に感じた記憶があります。
ちなみに、二十年以上経った今も交流は続いていて、わたしが本を出すたびに感想を下さいます。この「たまねぎとはちみつ」も、気に入ってもらえるといいなと思います。

––––千春とお母さんの関係も印象的でした。お母さんが、わが子を大切に思うあまり、いつのまにか子どもを束縛してしまっているところや、親子といえど、けっこうおたがいに気をつかっているところなど……子どもだけでなく、お母さん世代の読者も共感するところが多いと思います。

ありがとうございます。わたし自身には子どもがいませんが、友人知人には子育て中のお母さんが大勢いて、彼女たちから話を聞く機会はよくあります。聞けば聞くほど、子育てってむずかしそう……毎日わが子と向きあっているお母さん方のことは、本当に尊敬します。

––––現代を生きる子どもたちに、伝えたいことがありますか。

世界は想像以上に広くて、いろんなおもしろいひとたちがいて、いろんなおもしろいことが起こっている(もちろん、つまらないひとたちもいるし、くだらないできごともあるけれど)。そして、その広い世界につながる扉は、案外すぐそばに存在しているのかもしれない。この物語を読んで、そんなふうに感じていただけたらうれしいです。

––––ありがとうございました。

※『たまねぎとはちみつ』はKaisei webで連載していた作品を、改訂・単行本化したものです。現在第1話のみ公開しています。
https://kaiseiweb.kaiseisha.co.jp/a/tama-hachi/


瀧羽麻子
1981年兵庫県生まれ。京都大学卒業。2007年『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞。著書に『株式会社ネバーラ北関東支社』『はれのち、ブーケ』『いろは匂へど』『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』『ぱりぱり』『松ノ内家の居候』『乗りかかった船』『ありえないほどうるさいオルゴール店』などがある。

写真撮影/浅野剛

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今日の1さつ

2年前から一人暮らしです。書店で本を目にして、トガリネズミの愛らしいすがたに、つい買ってしまいました。主人公がとてもかわいくて、1ページ、1ページ色んなことを想像して、楽しくて、最後読み終わったとき、「そっか〜良かったね」と声が出てしまいました。ほんわかとやさしい気持ちになり幸せでした。(60代)

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