水がぬるみ、気の早い人は融雪剤をまく。3月は雪の穴をのぞく月。北国といえども3月は暖かい。11月の外気が寒暖計の指す数字より寒く感ずるのと反対に、風が弱ければ一日じゅうでも外にいたくなるような暖かさに思える。うれしい。
今冬は雪が多く、全てを能面のように覆い隠して単純にみえたうら山の雪面が、暖気のせいで大地の地面を正直に表現し始めた。あちこちにポカリポカリと穴があき、周辺に残した足跡が来客のあることを告げた。
月始め、若いクマタカがのんびり休んでいた足元に、実は倒木があり、あちこちに出入り口を持つキタリスの遊び場だったことを知る。定番の止まり木ではなく、足元でモゾモゾするリスの足音に耳をそばだてる狩りの姿があったかと。それにしても、のんびり見えたのも春のせいだったのだろう。当方も心がなごむ。
今冬はアライグマがやってきて、2年続けて庭で冬を迎えたクロテンの個体が一週間に一度くらいしか顔をみせない。北の地でもこの外来種の席巻はみごとという以外に表現のしようのない狼藉ぶりで、世界じゅうで起きた種の撹乱の現場を今年は毎夜みせつけられている。
そんな日、斜面にあいた雪穴の前に、ゆっくり観察しようとブラインドを立てて風のない日のひとときを楽しむことにした。思った以上の来客。ならばと私も穴をのぞく。そこはもう春の気配がする。風に吹き寄せられて、つもる落ち葉はじっとりとして暖かい。フキノトウが「もういつ出てもいいですよ」とまるい土色の外套を露出してみせた。ヤマゲラ、アカゲラがのぞき、シジュウカラが何かを探している。
エゾカケネズミの姿をチラと見たような気がしたらすぐあとクロテンの顔。カケスが秋にかくしたドングリを、落ち葉の下から見つけ出した。
もうすぐ忙しい月がくる。