毎年3月頃になると、年長組の子どもたちに「大きくなったら、なりたいものある?」ときいていました。
卒園式のときに、大きくなったらなりたいものをひとりひとり発表できたらいいなあと考えていたからです。夢を持つのは、とてもすてきなことだと思います。
わたしが保育士としてクラスに入っていたとき、子どもたちは実にたくさんの夢を語ってくれました。
「サッカー選手」「お花屋さん」「ケーキやさん」。「パティシエ」という子もいたなあ。「保育園の先生」と言ってくれたときは、うれしかった。
「空飛ぶピアニストになりたい」という子や、何度きいても「スケートボードになりたい」という子もいて、子どもたちひとりひとりの顔が浮かんできます。
なにをやってもなかなかうまくいかない! 絵本『ぼちぼちいこか』
『ぼちぼちいこか』(マイク・セイラー 作、ロバート・グロスマン 絵、今江祥智 訳、偕成社)という絵本があります。主人公のかばがいろんな仕事をしようとするのだけれど、どれもなかなかうまくいきません。
ぼく、しょうぼうしに なれるやろか。
なれへんかったわ。
ふなのりは、どうやろか。
どうも こうも あらへん。
体が重たくて、はしごがこわれたり、船がしずんだり。どれもだめ。絵本はこのように終わります。
ええこと おもいつくまで
ここらで ちょっと ひとやすみ。
ま、ぼちぼち いこかー と いうことや。
わたしは、小学校の卒業アルバムに「大きくなったら保母さんになりたい」と書いていましたが(いまは「保母」という言い方ではなく「保育士」)、思い描いていた職業に就いて幸せかというと、そんなことはありません。「どうも こうも あらへん」ということばかり起こり、やめたくなることもたくさんあります。
保育士の夢と一緒に「お母さんになる」ことも夢だったように思いますが、子育てもやっぱり思うようにはいかず、「どうも こうも あらへん」ことばっかりだったなあと振り返っています。
でも、どんなにつらいことがあっても、絵本のかばのように、昼寝しながら「ぼちぼちいこか」と思えばなんとかなることがほとんどだったと思います。
子どもにとって失敗することは、たいしたことではない
『ぼちぼちいこか』を子どもたちに読むと、うまくいかない主人公を心配する子もいるけれど、ほとんどの子は、げらげら笑ってこの本を楽しみます。
関西弁で翻訳されているのがおもしろさを誘うのか、ページをめくるたびにひっくり返って笑う子もいます。
「体が重いんだから、ちがうことすればいいじゃん!」と言ったのは、保育園のけいくん。重くてもいい仕事は思いつかなかったみたいだけれど、なるほどねと思いました。
子どもたちにとって、失敗することはたいしたことではないのかもしれません。
赤ちゃんだって、何度転んでも立ち上がってまた歩きだします。
どんな失敗も、笑っておしまいでいい、またちがうこと考えたらいいんだよね。「ぼちぼちいこか」って思えたら、きっとうまくいくよね。
この本をおもしろがる子どもたちが教えてくれた気がして、子どもたちと一緒にこの本を読むのがますます楽しくなりました。