『お月さまになりたい』(三木 卓 作/及川賢治 絵)は、半世紀前に刊行されて今なおみずみずしい名作を、オールカラーのイラストであらたな絵童話として再刊行した一作。ぼくと犬の、生まれたばかりの友情と切ない孤独のお話です。
何にでも変身できる、へんな犬と出会ったぼく
学校の帰りに、へんな犬に出会ったぼく。白と茶のぶちのもようの犬です。まっ白い犬なら飼ってやるんだけど、とぼくが心の中で考えたとたん……
「あれっ!」犬がきゅうにまっ白になりました。そのうえ、「こうなれば、かってくれますね」なんていいます。
犬は、人のことばもしゃべれるし、自分がなりたいものにはなんだってなれるらしいのです。でも、ぼくがリクエストしたものには、なかなか変身してくれません。ぼくの考えていることなんて、すっかりお見通しの、賢い犬なのです。
やけに気ぐらいが高く、頭の回転もはやいその犬を、ぼくはすっかり気に入ってしまいました。
ふたりで楽しいときを過ごしたあと、犬は「まだ、うまくなれないものがあります」とぼくに打ち明けます。それは、「お月さま」。ぼくは、「お月さまなんて、つめたい、つめたい、岩のかたまりだ」といって、犬を引き止めようとしますが……犬は、まっ白い海鳥に変わって、ぐんぐんと空高くのぼっていってしまったのです。
「あんなものになりたいなんて。へんな犬。がんこな犬……。」さて、犬はお月さまになれたのでしょうか。
半世紀前の童話を、オールカラーのあらたな絵で再刊行
本作は、「がまくんとかえるくん」シリーズの翻訳などで知られる三木卓さんが、1972年にあかね書房から出版した童話を再刊行したものです。刊行から半世紀がたってなお、みずみずしい童話が、100%orangeの及川賢治さんの絵で、あらたによみがえりました。
ぼくがほかの犬をなでようとすると「よその犬なんかと、なれなれしくしないでいただきたい」とやきもちを焼いたり、ぼくの少ないおこづかいから、骨つき肉を買わせたりと、少々らんぼうで、ちゃっかりしたところもある犬ですが、実は心には孤独を抱えていて……。
担当編集者は、「小学生のときにこの本を読んで、初めて心から童話に感動しました。それまでも好きな本はたくさんありましたが、この本にはたんなるお話ではない、なにか本当のことが書いてあると思って、読み終わってしばらくぼーっとしていたことを覚えています。」と語ります。
大人になるとつい忘れてしまう、子どもが抱くさまざまな感情がユーモラスに描き出された本作には、50年経っても色あせない魅力がつまっています。