『太陽と光しょくばいものがたり』(藤嶋 昭、かこさとし、村上武利、中田一弥、落合 剛、野村知生 共著/かこさとし 絵)は、ノーベル化学賞の候補にもなっている藤嶋昭さんの「光触媒」の発見と、その効果について、科学絵本も手がける絵本作家のかこさとしさんのイラストで、やさしく解説する絵本。太陽の力、そして科学の発見が私たちのくらしにもたらすものの大きさに、あなたも驚くはず!
太陽の光でピカピカに! 光触媒とは?
光触媒は、わたしたちが住んでいる地球に毎日届く「太陽の光」を使った化学反応です。太陽の光を使うのでよく知られたものに「太陽光発電」がありますが、多くの科学者が、何か特別なことをしなくとも、毎日地球に届き、かつ地球を汚さないこのクリーンなエネルギーを、あたらしく何かに応用できないか? と日々研究をすすめています。そのなかで、1972年に現在東京理科大学栄誉教授の藤嶋昭さんが発見したのが、この本で紹介する「光触媒」です。
「光触媒」は、簡単にいうと、「酸化チタン」という物質が太陽の光をうけると発揮する、チリなどを分解する力と、水をうすい膜状(ちょう親水)にする力が、酸化チタンの表面についたものを「ピカピカ」にする効果のことをいいます。わたしたちの身近なところで、光触媒が活用されているものには、たとえば、車のミラー(水滴やチリがつかない!)や、高いビルの窓(窓ふきのしごとをしなくてもいつもきれいに!)などがあります。
本書では、太陽のエネルギーの説明からはじまり、具体的に光触媒の作用や、応用について、「ものがたり」のようにわかりやすく紹介しています。
本が生まれたきっかけは
著者の藤嶋昭さんとかこさとしさんは、同じ東京大学工学部応用化学科の出身。その縁と、藤嶋さんがかこさとしさんの科学絵本のファンでもあったことから、藤嶋さんが、ご自身が研究している「光触媒」について子どもたちにもわかりやすく説明した本がつくれないか? とかこさんに相談したことから、この本が生まれました。
数多くのかこさんの科学絵本と同じように、本書も、私たちに身近なものからはじまる導入、何も知らないという前提の読者目線にたった文章、明解でありながら、ちょっとしたユーモアもあるイラストをそえるなどといった、かこさんのたくみな構成力が光ります。
「光触媒」についての理解が深まるだけでなく、発見を製品や技術に応用していく人たちの発想力、またその発見が身近なくらしにも多くの恩恵をもたらしていること、ひいては科学研究のおもしろさそのものなど、「職業としての科学」という視点からも楽しめる一冊です。