ドイツ児童文学賞を受賞した『ぼくはアフリカにすむキリンといいます』(岩佐めぐみ 作/高畠純 絵)が2021年で刊行20年を迎えます。ひとりぼっちのキリンが「地平線の向こうにすむきみへ」手紙を書いたことからはじまったこのシリーズも6作が刊行され、いまやキリンには友だちがたくさんできました。キリンの手紙で広がった「クジラ海のお話」シリーズの世界を、ちょっぴりご紹介します。
巻を重ねるごとに広がる「クジラ海」の世界
「クジラ海のお話」シリーズは、海のなかまたちが手紙を通じてつながっていくお話。どこから読んでも楽しめますが、順に読んでいくとさらにおもしろい! ここでは、それぞれの巻をちょっとずつご紹介します。
1作目『ぼくはアフリカにすむキリンといいます』では、たいくつなキリンが「地平線のむこうにすむきみへ」手紙を書くところからはじまります。手紙を受け取ったペンギンとの文通を通じて、見たことのないお互いのすがたを想像しようとしますが……(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。
キリンとペンギンの交流を見ていたクジラ先生は、自分も友だちがほしくなり、たくさんの手紙を書きました。その手紙に返事をくれたのは、かつてクジラ岬で一緒に暮らした仲間のクジラの孫・くーぼーでした(2作目『わたしはクジラ岬にすむクジラといいます』)。
その後、クジラ岬に移り住んだくーぼーは、親友のオットセイ・せいちゃんと文通をはじめます。その手紙を、新米郵便配達員のアザラシ・ザラシーがはりきって配達するのですが、大切な手紙をなくしてしまいます(3作目『オットッ島のせいちゃん、げんきですか?』)。
ザラシーが、なくした手紙を探している途中で知り合ったのが、ラッコのプカプカ。実はさびしがりや(?)なプカプカも、たくさん手紙を書きました。その手紙をみてやってきたのは、プカプカの家を「民宿コンブ荘」だと勘違いした旅ウミガメのカメ次郎でした。ちょっとあやしげにも思えたカメ次郎でしたが……(4作目『おいらはコンブ林にすむプカプカといいます』)。
顔が怖くて友だちができないサメ次郎もまた、プカプカの手紙を受け取っていました。怖がらせてしまったらどうしようと思いながらも、勇気を出してプカプカに会いに行くことにします(5作目『ぼくは気の小さいサメ次郎といいます』)。
このように、一通の手紙がきっかけとなり、少しずつクジラ海の世界は広がっていきます。毎回主人公が変わり、前回の主人公が脇役として登場するのも、このシリーズの楽しみのひとつです。
最新刊の主役はカメ次郎! お店の宣伝チラシが巻き起こす騒動とは?
最新刊『あっしはもしもし湾にすむカメ次郎ともうします』では、クジラ海の住人とすっかり仲良くなったカメ次郎が主人公。拾って集めたものでいろんな物を作るのが得意なカメ次郎は、旅から帰って、ふるさとのもしもし湾でお店を開くことにしました。宣伝チラシを配って準備ばっちり! のはずでしたが、なかなかお客がやってきません。どうやらニセの「カメ次郎商店」が繁盛しているようで……?
一方、クジラ海郵便局では、オープン記念イベントの準備で大忙し。アフリカからキリンを招いて、お手紙教室をひらくのです。
さて、カメ次郎のお店に、お客さんはやってくるのでしょうか? そして、郵便局のオープン記念イベントは成功するのでしょうか。
手紙を書くことは、相手のことを考えること
お手紙教室で、キリンとペンギンは出会いのことをふりかえります。見たことのないお互いのすがたを想像して、ペンギンのかっこうをして会いにきてくれたキリン。それは、本当のすがたとは似ても似つかなかったのですが、ペンギンはとってもうれしかったのです。
「にてるか、にてないか、そんなことは問題じゃなかった。会ったこともないぼくのことを、ずーっと考えてくれてたなんて! それだけでなく、会いにきてくれたなんて! うれしくないはずない!」
ペンギンはそういうと、あのときとおなじように、キリンにだきつきました。
ペンギンのそんな言葉に、キリンはみんなにこうつづけました。
「ぼくは地平線のむこうがわのぜんぶにはいけないとおもいます。でも、想像ってすごいです。心の中ではどこにだっていけるしだれとだって会える。手紙はぼくの世界を広げてくれて、ほしかったとびっきりの友だちが、できたんです。」
「ふーん、そうかあ。」
「手紙ってすごいね。」
手紙を書くことは、相手のことを想像すること、思いやることにもつながります。みなさんも、心に浮かんだ人に手紙を書いてみませんか?