誰もいないのに背後にふと気配が……幽霊の存在を感じたこと、ありますか? あなたの想像する幽霊はどんな性格でしょうか。さびしがりや? 乱暴? やさしい? 『幽霊派遣会社』(エヴァ・イボットソン 作/三辺律子 訳)は、この世に存在するいろんな性質の幽霊を、お家の要望にあわせて派遣するちょっと変わった会社と、とある2つの幽霊家族のお話です。
幽霊派遣会社とは?
幽霊派遣会社は、魔女になるための夜間学校で知り合った、ミス・プリングルとミセス・マナリングが、幽霊がみえるという能力を生かして始めた会社です。住みつく家がなくなって困っている幽霊と、幽霊をひきとりたいという人間の仲介をする、というちょっと変わった業態。
え? いったいどんな人が幽霊をひきとりたいなんてとっぴょうしもないことを考えるかって? それはたとえば、どろぼうよけだったり、観光客よせだったり、単に家をなくした幽霊を不憫に思うやさしい人たちだったり、さまざまです。意外と需要があるんですね。
さて、そんなふたりには、いま気にかけている幽霊の家族がいました。まず、5人家族のウィルキンソン一家。どこにも血はついていないし、心根はおだやかで、とてもいい人たちなのですが、今はロンドンの小さな下着屋で窮屈な生活を強いられています。それから、シュリーカー夫妻。こちらは、高貴な出の人たちなのですが、横柄な態度で人に接するうえに、なぜか元気なこどもをみると怒りくるって危ない目にあわせるという恐ろしい性質をもっています。
こういう仕事をしているときにぴったり需要と供給がマッチしたときの快感はいったいどんなものでしょうか。うれしいことに、まったく同じ日(それも13日の金曜日!)に、ふた家族のひきとり手があらわれたのです! 修道院の中にある古い建物で「平穏な暮らし」を約束するシスターたち。そして、「第一級の恐怖」をご所望の、大きな洋館を管理しているフルトンさんです。
実はフルトン氏の洋館には、最近この莫大な遺産を引き継いだいとこで、みなしごのオリヴァーが越してきたばかり。幽霊派遣は、その遺産をねらうフルトン氏の悪い企みなのですが……そんなことは知らない幽霊派遣会社のちょっとした手違いで、幸運であり不幸なことに、このふた家族はまったく反対のお家に派遣されてしまったのです。
さて、この先、いったいどんな波乱万丈な展開が待っているのでしょうか?
英国の人気作家エヴァ・イボットソンによるゴースト・ストーリー
作者のエヴァ・イボットソンは1925年生まれの、イギリスの児童文学作家。幽霊や魔法使いが登場するファンタジーを中心に、奇抜なアイデアとウィットにとんだたくみな語り口が、子どもから大人まで人気を博しています。2010年に亡くなるまで数々の作品を生み出し、息子のトビー・イボットソンもその仕事を引き継いで本を出しています。(『ほんとうに怖くなれる幽霊の学校』)
この物語の舞台となっているのはイギリスのマナー・ハウスです。イギリスのかつての貴族たちの住まいで、古いものを大切にするイギリスではこのマナー・ハウスを保存する協会もあり、イギリス各地で何百年も前のうつくしい洋館が観光客向けに開かれています。みたことある!という方は、そんなことも頭に入れながら読んでみると、より想像が膨らむかもしれません。
物語のおもしろさのなかに、謎ときの要素や、ユーモアもふくまれる、読み応えのある作品です。自分の思っていた方向からひとひねりも、ふたひねりもある展開が待っていますので、どうぞお楽しみに! この作品が気に入ったら、ぜひほかのイボットソンの作品もお手にとってみてくださいね。
対象は小学校高学年からです。