『どきどきしてる』は、さまざまな生きものたちの「どきどきしてる」瞬間を、力強い木版画と素朴な言葉でつづる絵本です。ページをめくるたびにひろがる迫力の絵には圧倒! 動物たちの「どきどき」を全身で感じられるこの絵本について、著者のたけがみさんにお話を伺いました!
デビュー前から編集者とやりとりをしていたと伺いました。今回作品ができてみて、いかがですか。
まずはひとこと、うれしい!ですね。声をかけてもらって、10年ちかくかかりましたから(笑)
やりとりをはじめたのは2014年ごろ。当時は木版画家として、個展をメインに活動していました。作品にみじかい文章をつけるようになったころでしたが、絵本の世界のことはぜんぜん知りませんでした。
ジュンク堂書店池袋店の理工書フロアで個展をやらせてもらっていたある日、アルバイトをしていた学童クラブからの帰り道にメールを見たら、偕成社のひとから「絵本に興味ありませんか」って連絡がきていて、「えー!」となって。
それから10年がたって、『どきどきしてる』が刊行できてほんとうにうれしいです。

当時展示していた作品。「雨が降る予報」
たけがみさんの描く力強い木版画に「どきどきしてる」という言葉が加わることで、動物たちの体温や、息づかいまで感じられて、生きている絵本という感じがしました!
そんなふうにおもってもらえたらうれしいです!
自分らしい、しっくりくるテーマはなんだろうって考えていて、ある日おもいついたのが「どきどきしてる」でした。
もともと、いろいろなことに緊張したり、不安を感じたりしてどきどきすることがおおい子どもでした。そんな気持ちを絵本にしようとおもっていたのですが、編集者さんとやりとりしているあいだに、そういうネガティブな「どきどき」のほかにも、ポジティブな「どきどき」もたくさんあるなっていうことに気づいてきて。うれしくてどきどきしたりとか、興奮してどきどきしたりとか、明日が楽しみだなってどきどきしたりとか……。
これだったら、自分らしくもあるし、描きたい絵がたくさんあるなとおもって、このテーマに決めました。
木版画で制作されているたけがみさんですが、今回は「彫り進め版画」という技法で制作されたそうですね。この技法について、ぜひ詳しくお聞かせください。
木版画では、版木をいくつか彫って、それを重ねあわせることで絵を表現するのですが、「彫り進め版画」は、いちど刷った版木を刷ったあとにまた彫って、べつの色の版にしたりしながら、色を重ねていく手法です。
彫り進めた版木はもとにもどらないので、おなじものは二度と刷ることができません。そのかわりに、絵を描いているような感覚で、自由気ままに彫っていけるところが気に入っていて、この手法をもちいています。

「さなぎは どきどきしてる」のページに使用した版木

版をかさねるごとに絵が浮かび上がってくる
大学では最初、リトグラフをやっていました。筆やクレヨンなどで描いたタッチがそのまま版画になるのがたのしくて気に入ってたんですが、卒業後も作家としてすぐに制作をはじめるにはプレス機が必要だったりと、設備を整えるのに時間がかかっちゃうなとおもい、卒業制作で木版画に転向したんです。慣れないうちは、版がズレてしまって大変でした。
それで、先生にすすめられたのをきっかけに、彫り進め版画をやってみることにしました。彫り進め版画なら、おなじ版木を使って刷るので、版がずれてしまうことがすくないんです。絵を描くように彫れる感覚もあって気に入りました。

卒業制作「動き出したら」
めずらしいやり方だと言われることも多いのですが、最近では小学校の授業でやっていたり、ピカソのリノカットの作品も彫り進め版画だとおもいます。
ちなみに、「彫り進み版画」とよぶこともあるみたいですが、なんとなく勢いがあってかっこいいので「彫り進め版画」というようにしています(笑)
たけがみさんが最近「どきどき」したことはなんですか?
大学で版画の授業をもっているのですが、その授業にひとりも来なかった日があって、どきどきしました。結局あとから少しずつあつまってきたのですが、もうだれも来てくれないかもしれない、とおもって(笑)
あとはやっぱり、この本をつくっているときですかね。描きはじめるときの、いよいよはじまるぞっていうどきどきや、〆切にまにあうかなっていうどきどき、描き終わって、デザイナーさんや編集者さんに見てもらうときのどきどき、そこからどんな絵本になっていくのか、印刷の校正を見るときのどきどき……。この1冊で、たくさんのどきどきを体験しました。
これからどんな読者の方のもとにこの絵本が届くのか、どきどき、しますね! これからどんな絵本をつくっていきたいですか?
むずかしい……けど、絵にもできないし言葉にもできない、そんなものが絵本としてかたちになっていくのが楽しいっていうのはありますね。
自分が子どものときに感じていたことって、べつに消えてしまったわけじゃなくて、こんな気持ちあったなとか、ふとしたときに思い出すことってあるじゃないですか。きゅうにそのときの気持ちになって、さみしくなったり、うれしくなったり。そういうのを逃さないでキャッチして、届けられたらとおもっています。
だから子ども向け、大人向けとかではなくて、読んだひとのなかにあったちいさな種が芽吹くような、そんな絵本をつくっていきたいです。
今後のご活躍も楽しみにしています。きょうはありがとうございました!
【『どきどきしてる』原画展】※好評につき会期延長!
会期:2025年 7月31日(木)~8月25日(月)(火・水定休日)
会場:URESICA 2階ギャラリー
住所:〒167-0042 東京都杉並区西荻北2-27-9
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