日本や世界各地の昔話を聞き取り、再話し、語ってきた中脇初枝さん。女性が活躍する世界の昔話を18話収録した『世界の女の子の昔話』の刊行を記念してお話を伺いました。
小さい頃から昔話が大好きだった、とのことですが、中脇さんにとって、昔話にはどんな魅力がありますか。
昔話を聞いたり読んだりしている間、今いる世界とはまったく別の世界に行くことができることです。
高知の四万十川べりの小さな家に暮らしていましたが、昔話を読んでいるときは、お城だったり、深い森だったりと、まったく別の世界を楽しむことができました。
そして、主人公の娘や若者も、歳を取ったおばあさんやおじいさんも、どんな困ったことがあってもあきらめず、最後には幸せになる。
その姿に励まされましたし、いつか大きくなって出ていくことになる、まだ見ぬ世界を、肯定的にうけいれることができたように思います。
女の子が主人公の昔話を再話するようになったきっかけはなんでしょうか。またそこにどんな思いがありますか。
幼いころから昔話に親しんでいましたが、ふと、昔話の主人公は男性が多くて、自分と同じ女性が主人公の昔話が少ないということに気づき、ふしぎに思うようになりました。
大学で民俗学を学び、これまで研究者が記録した、膨大な国内外の昔話資料に触れて初めて、各地で、男性が主人公の昔話だけでなく、女性が主人公の昔話も伝えられていたことを知りました。
けれども、その資料を多くの方は目にすることがありません。
また、各地で昔話の語り手にお会いして昔話を聞かせてもらったときにも、女性が主人公の昔話を語ってくださることがよくありました。
語りつがれながら、忘れられつつあった、女性が主人公の昔話を、多くの方に知ってもらいたいと思ったのです。
これまでよく知られている昔話では、つらい目にあってもおとなしく耐え、やがて王子に助けられる若くて美しい女性だったり、いじわるで悪い役回りの高齢の女性だったりと、登場する女性が決まった役割を演じることが多いです。
けれども、語りつがれてきた昔話には、もっとさまざまな女性が登場します。
物語の結末も、結婚だけでなく、大金持ちになったとか、一人で安楽に暮らしたなど、さまざまです。
多様化した現代社会において、彼女たちが彼女たちなりの幸せをつかむ、その多様な生きざまは、悩みながら生きるわたしたち––––それは女性だけでなく、男性をも––––励ましてくれることでしょう。
今回の新作を出すまでに膨大な時間がかかったとお聞きしました。その際とくに苦労されたことがあればお聞かせください。
前作の日本版『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』刊行から、11年かかりました。
苦労したのは、やはり、改めて膨大な昔話資料にあたったことです。
言語と文化の壁がありますし、昔話の研究がすすんでいる国もすすんでいない国もあり、探すのは大変でした。
そして、原話に立ち返るにあたっては、その国の出身の方々や、その言語や文化を研究されている方々のお力を借りました。
その国の方や研究者のみなさんにうかがって初めて知って、驚くことも多かったです。
また、これは編集者さんががんばってくださったのですが、とても古い資料もあり、著者や出版社のみなさんに再話のお許しをいただくのも大変でした。
再話するにあたって、どのようなことを考えながら文章を書かれていますか。昔話の語りもされていますが、その経験も生かされているでしょうか?
はい。昔話は、人から人へ語りつがれてきたものですので、語る側としてはおぼえやすくて語りやすく、聞く側としては聞いてわかりやすい形をしています。
語り手としての経験から、そういう昔話の語り口をなるだけそのままに再話しました。
また、これは昔話の再話では必ずしていることですが、書き上げた原稿をこどもたちに聞いてもらい、語り手の友人たちとも読み返して、何度も推敲を重ねています。
そのため、目で読むだけでなく、語りやすく、聞いてわかりやすい文章になっていると思います。
この本でお気に入りの昔話を教えてください。
どの昔話もとてもすきなので、とても選べないですね。なまけものの女の子が幸せになるスペインの「くいしんぼうのなまけもの」、女の子同士で助けあうハイチの「わたしがテピンギー」、マダガスカルの、天国の3人姉妹の昔話「太陽と月とラビナラ」、とらを退治したり、どろぼうを追い払ったりする韓国の女性の昔話…と、18話それぞれ、どの昔話の主人公も魅力的です。
ありがとうございました!
中脇初枝
徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作と、昔話の再話・語りをする。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。