あたたかくなってくると、道端にたくさんの花が見られます。保育園に来る途中で、子どもたちはタンポポやシロツメクサを摘んできてくれるので、小さなびんや、小さな花びんを用意しています。
わたしは長年、子どもたちと関わる仕事をしているので、春の草花の名前をすぐ答えることができます。「これはオドリコソウっていうんだよ。ほら、スカートがくるくるって回って踊っているみたいでしょ?」と、子どもたちに言うと「ほんとだあ」と喜んでくれるので、「これはオオイヌノフグリ」「これはホトケノザ」と自慢げに話してしまいます。
でも、ほかの先生が「これ、なんて名前?」という子どもたちからの問いに「なんて名前だと思う?」とか「わかんないけど、かわいいね」、「今度一緒に調べてみようか」などと答えているのを見ると、その方が楽しそうだなあとうらやましく思うことも!
子どもたちといっしょに、草花を楽しむ!
子どもたちといっしょに、花の色や形、葉っぱのようすやにおいを一緒に面白がったり、大事に持ち帰って、花びんに飾ったりすることが、名前を覚えるより大事だと思っています。
わたしが若い保育者だったころ、子どもたちと散歩に出かけては草花を摘んでいました。わたしの姿を見た子どもたちが、花壇の花をたくさん摘んで遊んでしまったので「それは大事に育てている花なんだ」と言ったら「そうだよね、だいじにして、いまからケーキをつくるんだよ」「そうだよねー! いいにおいのケーキだよねえー!」と。
こういう子どもの気持ちは大事にしたいけれど、園長先生にしかられるかなあと思い、「でもさ、花だって生きているんだよ」と言ってみたら「じゃあ、あとでお墓つくっておく!」「ねー!」と、子どもたちがあまりに楽しそうなので、思わず笑ってしまったこともありました。
小さな種から、きれいな花が咲くことが、わたしは今でも不思議で仕方がありません。自然は子どもたちにさまざまなことを教えてくれます。摘んできた花が枯れてしまうことだって、子どもたちにとっては興味が湧くことです。
子どもたちのおかげでたくさんの花に触れることができたのは幸せだなあと思います。
保育園では小さい子たちの部屋にも、図鑑を置いている。
名前がわからない草花に出会ったら、ぜひ、こっそり調べてみてください。
保育園では小さい子たちの部屋にも図鑑を置いています。小さい子でも、写真の図鑑をちゃんと楽しめます。考えてみたら、赤ちゃん絵本の文字だってまだ読めないのだから、漢字ばかりでも大丈夫なのかも!
わたしが保育園の部屋に置いているのはこんな本です。
『野の花えほん 春と夏の花』(前田まゆみ・作、あすなろ書房)
『植物記』(埴 沙萠・写真 文、福音館書店)
この本は小さな本で、わたしが愛読しています。
『草の辞典 野の花・道の草』(森乃お・ 著、ささきみえこ・イラスト、雷鳥社)
それから、春の時期に読みたいこんな絵本があります。
『わかくさのおかで』(かじりみな子・作、偕成社)
うさぎのラビッタちゃんが家族みんなでピクニックに行くお話。ラビッタちゃんがお手伝いしてお母さんといっしょに作るおべんとうは本当においしそう!「きょうは家族でピクニック……」と歌うラビッタちゃんの声が聞こえてきそうな春の景色が描かれていて、読んでいるとわくわくします。途中で妹のピョコラッタちゃんがいなくなってしまうというハプニングも!
春になったら、テーマパークへ遊びに行くのもいいけれど、近くの公園やはらっぱにお弁当を持ってでかけるのがやっぱりおすすめです! ラビッタちゃん家族のように、草花で花飾りを作るのも楽しいですね。実は先日、園庭のすみにシロツメクサなど草花の種をこっそり蒔いておきました。あたたかくなったら、芽が出るといいなあ。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。