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子育てと絵本の相談室

保育士が答える! 0123歳のちょっとしたお悩み 第30回

月を見た子どもが「なんで?」「どうして?」といろいろきいてきます。こんなときおすすめの絵本ありますか?

2023.09.25

お月さまを不思議に思うっていいですね。おとなのわたしも、月の満ち欠けに心を動かされるし、満月の夜には仕事の帰りに車を停めてながめています。

「ほっそーい、おつきさま。おれそうだね、だいじょうぶかな」

子どもたちが三日月を見てそんな風に表現しているのをきくと、その感受性をうらやましいなと思います。

ある日、保育園へ最後にお迎えにきたお父さんと1才のはるちゃんが、園の駐車場の真ん中で座りこんでいました。何かあったのかなと思い、声をかけたら、「月、見てます」と。

見上げると、大きなまんまるな月。スーパームーンの日でした。忙しくても、ちょっと空を見上げる時間を持てるのっていいなあと思いました。

「なぜ?」「どうして?」の子どもの質問には、質問で返してみるのがいいと思います。

「なんで、おつきさま おおきくなったり、ちいさくなったりするの?」
「おつきさま あるくと ついてくる。なんで?」
「おつきさま あさなのに でてるよ。どうして?」

こんな子どもの「なぜ?」「どうして?」には、「なんでだろうね」「どうしてだと思う?」と、質問で返してみるのがいいと思います。

わたしは、子どもの質問には、すぐに正解を伝えるのではなく一緒に考えるようにしています。ごく小さい子たちに必要なのは、答えを教えてくれる人ではなく、そばで共感してくれる人なのではないかと思うからです。

子どもたちの「なぜ?」「どうして?」がどんどんふくらんできて、本人の興味が「答えを知りたい」というところに達したと感じたときが、良いタイミング。ここで図鑑を見たり、しくみを知ったりする機会があるといいと思います。

月といえば、お月見。保育園でも、中秋の名月にはお月見会をします。栄養士さんと一緒にお月見だんごを作ったり、図書館の方にお月見のお話をしてもらったりする予定です(保育園の栄養士さんのレシピには、粉の倍量の豆腐が入っています。小さい子たちが、おだんごをのどにつまらせないよう、大事な配慮をしています)。

お月見会でもいいし、ふだんの生活で月を見上げるときでもいいので、「月って、不思議でおもしろい!」っていう記憶が、子どもたちの心の底に残ったらすてきです。

小さいときならではの自然現象を見る目を大切に。絵本でゆっくり楽しむのがおすすめです。

子どもが小さいときだからこそ、感じられることがあると思います。知識をつけるのは後まわしにして、絵本でゆっくり楽しむのはどうでしょう?

『パパ、お月さまとって!』(エリック・カール・作、もりひさし・訳、偕成社)
『はらぺこあおむし』で知られるエリック・カールさんの娘さんが「パパ、あのお月さまとって!」と言ったそう。月の大きさや距離について説明しようと思ったけれど、子どもは理解できなかったので、月の絵本を描いたというエピソードが本のカバーに書かれています。お月さまと遊びたいモニカと、その思いをかなえようとするパパの愛情、そして月が満ち欠けすることがとてもすてきに描かれています。わたしの息子は、「子どもの頃に読んでもらった絵本で一番印象に残っているのがこの絵本」と、大きくなってから言っていました。

『きょうはそらにまるいつき』(荒井良二・作、偕成社)
おとなが手にしたいと思うほどすてきな絵本。丸い月が空に浮かぶと、誰もが見上げたくなる。そして、世界のどこにいても変わらず、同じように見えているのだということが伝わってくる。月を見上げるとき、なぜかおだやかな気持ちになる。そんな時間を、親子で味わえたらすてきです。子どもたちは、ねこや犬など、細かいところを見て指さして楽しんでいます。デフォルメされているようで、生きて動いている世界が描かれていることを、子どもたちはちゃんと感じているようです。

『おつきさま こっちむいて』(片山令子・文、片山健・絵、福音館書店)
男の子が空を見上げている表紙の絵がとても魅力的。男の子がお月さまに語りかける。声に出して読むと、男の子と一緒に空を見上げている気持ちになる。きっと、子どもたちも一緒だと思う。描かれてるお月さまは細かったり、半月だったり、満月だったり。空に上がりはじめたばかりのオレンジ色のお月さまが、上へいくにつれ、黄色く明るくなることも言葉とともに絵で表現されている。片山健さんの絵本は、どれもとても好きだけれど、ご夫婦で作られたこの絵本からは、子どもの気持ちに寄りそっている優しさが伝わってきます。この本を読むと、きょうのお月さまを見上げて「おつきさまこっち向いて」と語りかけたくなります。

『おつきさまこんばんは』(林明子・作、福音館書店)
「おつきさまこんばんは」と、絵本の文を読むと、0才児でもかわいらしく頭を下げる。お月さまと同じような表情になるのもかわいい。「おはよう」や「こんにちは」ではなく、「こんばんは」というあいさつを子どもたちが知るきっかけになるのもいいなあと思う。お月さまの表情はとても豊かで優しく、何度も子どもたちに読みたくなる。「ねこちゃんだねえ!」と、ページをめくるたびに言う子を見て、お月さまとお話しているのは、この2ひきのねこなのかもと思ったりもします。


安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。

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