「行事」って、とらえかたは人によってさまざまですね。大変なことはしなくても、その家その家で、伝統行事を作っていくことはできるような気がします。
特別な飾りはしないけれど、お正月に家族で近くの神社に行くのが恒例だったら、それはその家の伝統行事だし、おじいちゃん、おばあちゃんの家に必ず行くことになっているなら、それも、子どもたちにとっては「お正月」を感じる時間です。
子どもたちが小さい頃、わたしは毎年、近所のおもちゃやさんで「ゲイラカイト」(凧あげの凧)を買っておいて、近くの中学校の校庭へ行って凧あげをしていました。この凧あげが、わたしが考えた「うちの伝統行事」。姪っ子や甥っ子たちの分もはりきって用意していたのですが、3人の子どもがいるわたしの姉に「子どもたちがもう大きくなったから、そろそろ、凧やめてくれる?」と言われたときは、すごく残念な気持ちになった思い出も……。
形にとらわれず、それぞれの家族で毎年していることや、家族の間に伝わっていることを大事にすればいいのだと思います。
小さい子にとって、絵本のなかでさまざまな行事に触れる経験はとても大事。
「形にとらわれずに」とは言っても、日本の行事を伝えたいと、保育園では毎年、趣向を凝らしてさまざまな取り組みをしています。年末には大そうじをしたり、お餅つきをしたり、しめ縄を作ったりする園もあると思います。年があけたら、凧あげや羽根つき、かるたや福笑い。保育園でそんな行事を行うとき、わたしは一番はりきって、着物の羽織を着てこまを回していました!
お正月のあとは、2月の節分、3月のおひなさまと、子どもたちと一緒に楽しめる行事がたくさん。
「今年は何をしようかな」と考えるとき、絵本は長年勤めている保育者にとって、欠かせない、大事なものです。由来が書かれているものや、しかけになっているもの、「どんな本を子どもたちに読もう?」とワクワクするほどたくさんあります。
園での行事では、節分の豆をまくと豆を飲みこんでしまって窒息のおそれがあったり、おひなさまを飾る空間がなかったり。でも、絵本があれば大丈夫! わたしは、小さい子が絵本のなかでさまざまな行事に触れる経験はとても大事だと考えています。お母さんやお父さん、おじいちゃんおばあちゃん、まわりのおとなが毎年その時期に季節や行事の絵本を読んでくれる時間が、子どもにとっての「伝統行事」になったらすてきですね。
『十二支のおはなし』(内田麟太郎・文、山本孝・絵、岩崎書店)
少し前までは、保育園の年長の子たちが「ぼく、いぬ年!」「わたしも!」と話しているのをきいて、2歳児クラスの子が「みっちゃんは、ねこ!」と言うようなことがよくあったけれど、最近は「自分がなに年か」ということを話題にすることさえ少なくなっている気がする。この本は、十二支のようすがユーモラスに描かれていて、3歳の子たちが何度も「読んで!」ともってくる。表紙の干支を順番に言っているうちに「ねずみ、うし、とら」と覚える。干支がわかるっていいなと思う。
『十二支のお節料理』(川端誠・作、BL出版)
十二支の動物たちが年末に大そうじをしたり、お節料理を作ったりする。それぞれに係が決まっていて、真剣に取り組んでいる感じが伝わってくる。作者の川端誠さんは本を描くときに、とにかく調べるそう。この本を見ると、年が明けたお正月のようすが記憶に残ります。わたしの家では今でも年末にはお節料理を作ります。わたしが子どもの頃そうだったように、子どもたちは「きんとん」を作るための、さつまいもの裏ごし係。今では孫が手伝うように。絵本を読んだあとに、インターネットで簡単なお節料理を調べて、子どもと一緒に作るのもいいかもしれません!
『あかたろうの1・2・3の3・4・5』(きたやまようこ・作、偕成社)
節分が近くなって、こわいおにがやってくると知ると、子どもたちはどきどきする。おにをおいはらって、春をむかえる節分の行事は毎年やりたいと思う。節分の豆が危険ということで、小さい子のクラスでは趣向を凝らしてやっている。このあかたろうの絵本は、おにたちの生活が描かれている。あかたろうがお母さんを探してあちこちに電話をかける姿、お母さんの買い物かごの中身をあてる姿が、子どもたちの共感を呼ぶ。「このおには、こわくないね」と子どもたちはちょっと安心。
『つくってあそぼう! おめんブック』(いしかわこうじ・作、偕成社)
わたしは節分のおにはこわい方がいいと思っている。こわいおにをおいはらった後に、あたたかい春がやってくるのがうれしい。そのちょっとこわいおにを作れる「おめんブック」。6種類のカラフルなおめんだけでなく、自分で好きな色を塗ることができるおめんも入っている。節分以外でも楽しめる。子どもたちが自分で作れて、できあがりの完成度も高いので、自分がおにになる楽しさも味わうことができる。「おに、こわい」と言っているのに、おめんをかぶると「おにだぞー」とちょっと声色を変えて、おにになりきる子どもたちの姿はなかなかいい!
『ひなにんぎょうができるまで』(田村孝介ほか・写真、人形の東玉・監修、ひさかたチャイルド)
おひなさまができる工程を写真で説明していく。だれが作っているのか、どんな風に作っているのか、写真なので子どもたちはイメージしやすく、じっと見る。ひとつひとつの道具類の説明もあって、おとなのわたしもなるほどと思う。おひなさまを飾ることがなくても、絵本の中で七段飾りを見ると、ひなまつりの気分を味わえる。絵本を通して、子どもたちがおひなさまのような文化に興味を持ってくれるといいなあと思う。
『きょうはなにして遊ぶ? 季節のこよみ』(平野恵理子・著、偕成社)
日本には四季があって、日本ならではの文化がある。そんな季節の移りかわりを子どもたちと一緒に楽しみたい人におすすめの1冊。節分などの節句だけでなく、冬至やお彼岸、季節の食べものや作り方も紹介されている。カラフルな絵で描かれているので、絵本感覚で楽しめる。一家に1冊置いてあると、情報が満載なので、子どもたちと一緒に遊べる。今度、孫たちと、かるたや凧あげを楽しもうかな。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。