子どもって、「どこで覚えてきたのだろう?」という言葉を使って、おとなを驚かせることがあります。言葉がしっかりしてくると、本気でけんかになってしまうこともあり、あとで大人気なかったと後悔することも。
わたしの娘が小さいころ、「おてんぷら、いきたい!」と言うので、なんのことかわからず、「『おてんぷら』は行けないなあ」と返しました。それでも何度も「いきたい! いきたい!」と言います。ひょっとしたら……と思い、「露天風呂?」ときくと、本当にうれしそうに「うん!」とうなずいたことがあります。おとなにわかってもらえたと感じる瞬間の積み重ねが、子どもを成長させることもあるように思います。
だとすると、子どもが悪い言葉を使ったときに、頭ごなしに「そんなこと言わないの!」と怒ったり、「だれがそんなことを言ったの!」と詮索したりしないほうがいいのではないかと思います。
子どもがどの種類の「悪い言葉」を使っているか、よく見てみる。
一言で「悪い言葉」と言っても、種類がありますね。
年少、年中くらいになると「うんち!」「おなら」といった言葉をやたら喜ぶ子がいます。これはわたしが保育者になった40年前から、変わらずずっとある子どもの姿。そんなに気にしなくても、あっという間に言わなくなります。「また、言っているなあ」くらいで聞き流しても、「なんだってー、おならだって~!」と一緒に楽しんでしまっても大丈夫だと思います。
「デブ」「バカ」「シネ」などの相手を傷つける言葉は、「そんな言葉は言わないでほしい」ということを、短い言葉ではっきり伝えたい。あまり長々と説明するより短い言葉で言うほうが、「これは言わないほうがいいんだな」と、子どもたち自身で気がつくように思います。
以前、3歳の子にお願いごとをしたときに「ヤダね、おまえやれ!」と言われてびっくりしたことがあります。お父さんもお母さんもそんな言葉を使っていないと言うので、きっとテレビか何かで覚えたのでしょうね。おとなは子どもの鏡なので、家族が使わなければ、使わなくなっていきます。それに、生まれてまだ数年の子どもたちの生活経験はとても少ないので、使っている言葉にそんなに深い意味はないと思います。
「そんなこと言わないの!」と怒るより、自分の気持ちを伝える。
子どもが発する言葉をきいて、まわりのおとなが「こんな言葉を使って大丈夫かな?」「相手を傷つける言葉は発してほしくないな」と感じるのは、つまり、子どもたちの言動をちゃんと見ているということ。その思いは子どもにきっと伝わるはず。
「そんなこと言われると悲しい」「そんな言葉で言われると嫌な気持ちになる」と冷静に自分の気持ちを伝えていくのが大切で、「そんなこと言わないの!」とか、「なんでそんなことを言うの!」という叱責はあまり効果がないようです。
とはいえ、わたしも先日、家に遊びにきていた5歳の孫に「もう、そんなことばっかり言う子は、遊びに来ないで!!」と本気で怒ってしまいました。なかなか思うようにいかないものです。
怒ったり、なだめたり、ほめたり、しかったり。子育てってホントに忙しい。でも、子どもがいるからこそ、心が動く楽しいこともたくさんあるはずです。
子どもたちが好きな、悪い言葉を言ったり、いたずらをしたりする登場人物がでてくる絵本。
子どもたちは、悪い言葉を言ったり、いたずらをしたりする場面がある絵本が大好き! こんな楽しい絵本があります。
『あかんべノンタン』(キヨノサチコ・作 絵、偕成社)
ノンタンは「あっかんべえ」とみんなをおどろかせては、「ひどいよノンタン、ひどいよ」と言われます。でも、「ああ、おもしろい」と笑うノンタン。子どもたちは、ノンタンと同じように、けらけら笑っておもしろそうに見ている。でも、ノンタンがおひさまに「うるさい うるさい、いたずら ちびねこめ! たべちゃうぞー あっかんべえ」と言われると、やっぱりノンタンと同じようにびっくりした顔に。あんなにこわい思いをしたら、反省するのかと思うと、「あかんべは こわかった。でも やっぱり やめられない、おもしろい!」と言っているページで終わる。ノンタンの魅力は、おとなが登場して「そんなこと言ってはいけません」と言ったりしないところ。でも、子どもたちは、この本を見ながらいろんなことを考える力があると思います。
『こんもりくん』(山西ゲンイチ・作 絵、偕成社)
おふろがきらいで髪を切るのがきらいなこんもりくんの頭は大変なことに。パパが「きょうこそ かみのけを きらせなさい!」と言っても、「やだよー」と外へ。そんなこんもりくんの髪の毛の中にはなんとねずみたちが楽しそうに生活しているという、なんともナンセンスな絵本。ねずみたちの王様になって、ここで一生生活していくと決めたこんもりくんですが、夜に布団に入るとおならがしたくなってしまいます。そして、とってもくさいおならを「ブー!!」。と、ここで4歳の男の子はもう笑いがとまらないくらい喜ぶ。「おならブー!!」がそんなにおもしろいのか?と、こっちが笑えてくる。こんなことがおもしろい時期って、ほんの少しの間なんだろうなあ。ユーモラスな絵本を親子で楽しめたらステキかも!
『うんちっち』(ステファニー・ブレイク・作、ふしみみさを・訳、あすなろ書房)
うさぎのシモンは、何を言っても「うんちっち」としか言わない。ごはんを食べるときも、おふろに入るときも、シモンの返事は「うんちっち」。子どもたちは「うんちっち」と言うたびに、大笑い。でも、「うんちっち」と言っているうちに、おおかみに食べられてしまいます。シモンを食べたおおかみが、おなかが痛くなって医者を呼ぶと、医者はシモンのお父さん。何をきいていも「うんちっち」と言うおおかみに、シモンが食べられたことに気づきます。助けるために、おおかみの口の中に手を突っ込み……。無事に助け出されたシモンは、ちゃんとお話ができます。でも、次の朝起きてみて、シモンが言った言葉は「おならブー」。その言葉をしかるパパやママが登場しないので、子どもたちは安心して笑います!
『ねずみくんのきもち』(なかえよしを・作、上野紀子・絵、ポプラ社)
ねこくんにいつもいじわるをされてしまうねずみくん。そこへふくろうがやってきて、ねずみくんの話をききます。ふくろうは、ねこくんが一番大切なものを忘れていると言う。大切なことは、相手を思う思いやり。相手を思うことができれば、いじわるをしたり、人を困らせたりしなくなると……。わたし個人としては、小さいときには相手のことをうまく思いやることができなくて、自分の感情を思い切り出したり、けんかしたりする中で育っていくことも多いと思うのですが、でも、本当に大事なことをふくろうが言ってくれて、そうだなあとうなずく。子どものまわりにいるおとなにも読んでもらいたい1冊です。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。