はじめまして。今月より「絵本の相談室」を担当することになった安井素子です。
「絵本の相談室」とのことなのだけれど、「絵本」のことって、子育てと同じできっと「正解!」というものはないと思う。それでも、わたしの思いを伝えることで「絵本っていいな」と思ってくれる人が、一人でも増えたらうれしい。どうかよろしくお願いします!
「子どもの頃、親に絵本なんて読んでもらったことない」と言う人でも、ちゃんとりっぱな大人になっている人はたくさんいる。
だから、食べることや、寝ることとちがって、絵本がないと大きくなれないってことはないと思う。でも、子どもと一緒に絵本を楽しめる環境があるなら、ぜひ、読んでほしいなあ・・・・・・。
「子どもにはたっぷりお母さんの愛情を!」
「仲の良い両親に育てられた子はすくすく育つ!」
「絵本をたくさん読んでもらった子は学力が高い!」。
子どもをよい子に育てるためのさまざまなスローガンに心を動かされ、
―子育てが大変過ぎて、なかなかかわいく思えない、とか
―父親がいないから、こんなにダメな子になってしまったんでしょうか?、とか
―うちの子は絵本なんて見向きもしないけれど、どこか変でしょうか?、とか
そんなふうに、目に見えない圧力に悩んでいるお母さんたちにたくさん出会ってきた。
でも、たいていは大丈夫! ちゃんと育っているよ。悩んでいるお母さんの前で、わがままいっぱいだとしても、ほら、いつのまにか、大きくなってる。「子どもたちは、自分で大きくなる力を持っているから大丈夫だよ」、そう励ましてきた気がする。
子どもの育ちはさまざまで、何でもすぐにできるようになる子もいれば、ゆっくり、ゆっくり大きくなる子もいるから。
最初の質問、「絵本って子育てにどうしても必要ですか?」にもどると、よい子に育てるための圧力に左右されなくても大丈夫だけれど、この質問に対して、わたしが思うのは、「絵本を嫌いな子に出会ったことがない」ということ。
わたしは40年近く子どもたちと生活する仕事をしているけれど、これはまちがいない。
それは、ひとりひとりの大きくなる速度や、ひとりひとりの興味のあることのちがいに絵本はちゃんと応えてくれるからだと思う。
だから、「絶対に必要」ではないかもしれないけれど、子どもに一緒に絵本を読める環境があるなら、ぜひ、読んでほしい。
ひとりひとりの「いいところ」や「ちがい」に応えてくれるといえば、絵本の『おめんです』(いしかわこうじ 作・絵)がある。
この絵本は、おめんを本当にとれるしかけがある作品。
登場するおめんが、キャラクターではないところも、この本のいいところ。
「このおにさん、どこに住んでいるんだろう?」
「ひょっとこってなんでおもしろい顔しているんだろう?」
と、子どもたちが想像する余地がたくさんある。
でも、それだけではなくて、うしさんは、「つのがかっこいい うしさん」、ぶたさんは、「ふっくらかわいい ぶたさん」と、どうぶつの名前の前に、その子のいいところが一言そえられている。読むたびに、そこが「いいなあ」と思う。
「こわーい おにのおめん かぶっているのだーれ?」
と読んで、子どもが、
「ぼく!」
って顔をだしたら、
「わー、わたしの大好きな、絵が上手な○○くん!」
と、ぎゅっと抱きしめる。そんなふうにしたら、すてきな時間になるかも!
日々の子育ては、ちいさな「いいところ」探しにあるかもと思うので、わたしはこの本が好き。そして、子どもだけでなく、お母さんやお父さんたちもが自分のいいところも探してほしい。絵本のある生活を楽しんでくださいね。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。児童センター館長として、日々子どもたちと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けている。