『ハリネズミと金貨』(ウラジーミル・オルロフ 原作/ヴァレンチン・オリシヴァング 絵/田中 潔 文)は、ウクライナの児童文学作家が遺した物語に、現代ロシアを代表するアニメーターが絵を描きおろした、じつは日本オリジナルの絵本。ハリネズミと動物たちが助けあう暮らしを描いた、あたたかなお話です。
ハリネズミのおじいさんは、冬ごもりのために買い出しへ
ある日、ハリネズミのおじいさんは、道ばたで1枚の金貨を拾います。年をとり、冬ごもりのしたくが大変になってきたおじいさんは、この金貨で干しキノコを買うことにしました。
しかし、せっかく金貨があっても、肝心の干しキノコが見つかりません。そんなとき、偶然であったリスさんが、干しキノコがいっぱいつまった袋をわけてくれました。「その金貨は、くつにつかうといいわ。おじいさんのは、もうぼろぼろだもの。」
リスのことばにしたがって、おじいさんがくつを探して歩いていると、通りかかったカラスが「くつぐらいおれがつくってやるよ!」と、ドングリの実をけずって、立派なくつをつくってくれました。「その金貨は、ほら、あったかいくつ下にでもつかいなよ。冬はもうすぐだからね!」
その後も、森の動物たちがこころよくおすそわけをしてくれたおかげで、おじいさんは無事に冬じたくをととのえることができました。では、拾った金貨のゆくえは? 答えは本を開いて確かめてみてください。
じつは日本オリジナルの絵本!
本作は、クリミア地方で活躍した児童文学作家、ウラジーミル・オルロフが書いた短いお話を、田中潔さんが絵本として構成し直し、ロシアの画家に新たに絵を描きおろしてもらった、日本オリジナル作品です。
田中潔さんは、あとがきで「ロシアの人々が20世紀の大半をすごしたのは、市場の働きが弱く、必要なときに必要なものを得にくい社会」だったと語ります。当時のロシアでは、お金だけあってもあまり役にはたたず、知人や友人の間で必要なものや情報、サービスを融通しあって生活が成り立っており、「100ルーブリより100人の友をもて」ということわざが、ロシア社会を体現していました。
「困ったときに頼りになるのは困っているときに助けた人。でもどういう人を助けることが将来役にたつかなんて、だれにもわかりません。だからロシアには不幸な人、困っている人を目にしたとき、損得計算抜きに自然な感情のまま手をさしのべる人が多かったのです。」
絵を手がけたのは、「ロシアで最高のアニメ画家」といわれるヴァレンチン・オリシヴァングです。当時の担当編集者によると「これはロシアの光じゃない、明るすぎる」と、絵本の制作過程で何度も色味の調整をくりかえしたといいます。晩秋の夕暮れから夜にかけての澄んだ空気や、にわかに感じる冬の気配がみごとに描き出されています。
*『ハリネズミと金貨』原画展を開催中です
場所:教文館ナルニア国(東京都中央区銀座4-5-1 9F)
期間:2024年9月7日(土)〜10月27日(日)
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