「コーダ」ということばを、聞いたことがありますか? コーダ(CODA)は、Children of Deaf Adultsの略称で、耳が聞こえない、または聞こえにくい親のもとで育つ子どもを指します。今回は、コーダの手話通訳士が主人公のミステリー『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)にはじまるシリーズのスピンオフ、『水まきジイサンと図書館の王女さま』(丸山正樹 作/高杉千明 絵)をご紹介します。
美和のまわりで起こる、不可思議なできごと。
小学4年生の美和は、お母さんとアラチャンと3人暮らし。アラチャンは実の父親ではなく、美和は、苗字(=荒井)とおじちゃんを掛け合わせて「アラチャン」と呼び、小さなころから、手話通訳士のアラチャンから手話を教わっているので、手話ができます。
美和にはなかよしの友だちがいます。同じクラスの英知です。英知は、特定の場面でことばを話せなくなってしまう「場面緘黙症」という症状をもち、学校で友だちと話すことができません。そこで、美和のすすめで、アラチャンから手話を教えてもらって、今では2人は手話で会話をするようになりました。
あるとき、美和たちの学区でちょっとした事件が起こります。通学路で、猫がつづけて何匹も、道に食べたものをもどしている、 というのです。そんなある日、通学路に面するマンションで毎朝、なにも植えていない花壇に水やりをしている、ちょっぴり「変」なおじいさん、通称「水まきジイサン」が、猫に毒をまいている犯人ではないか、という説が浮上するのですが……。
2人には水まきジイサンが犯人とはどうしても思えず、おじいさんの濡れ衣を晴らすべく、調査に乗り出すことにしました。そんななか、美和と英知は事件の鍵となる耳の聞こえないおばあさんに出会います。
巻末には、作中に出てくる手話の説明と、指文字表が掲載されています。
手話通訳士を描いた傑作ミステリー『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)のスピンオフ!
作者はろう者の世界とミステリーを巧みにからませた傑作『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)で作家デビューした丸山正樹さん。本作は、丸山さんがはじめて手がけた児童書で、同シリーズのスピンオフです。
「デフ・ヴォイス」シリーズでは主人公「アラチャン」の手話通訳士としての活躍が描かれていますが、本作では、美和を主人公として、子どもたちの世界で起こる小さな謎を描くなか、「手話はろう者の言語であり、尊重すべきものである」というシリーズ通しての考え方が、やさしく子どもたちに伝わります。
続編『手話だからいえること 泣いた青鬼の謎』では、少し成長した美和と、あらたに誕生した聞こえない妹・瞳美が加わったことで、ろう者ととりまく世界を、より深く知ることもできます。合わせてお楽しみください。