『ともだち』(木坂 涼 作/さとうあや 絵)は、くまのおじいさんとねずみのぼうやの仲を描いた幼年童話です。今回は、5編あるうちの1編をご紹介します。
はじめてのお泊まりで、はじめてひとりで寝るぼうや。「おとまり」
くまのおじいさんと、ねずみのぼうやは大の仲良し。おじいさんの家でおしゃべりをしたり、一緒に散歩にでかけたりと、いつも楽しく過ごしています。
今日は、ねずみのぼうやが、おじいさんの家にお泊まりをする日。パジャマと歯ブラシをつめたリュックを背負って、ぼうやがやってきました。
「ぼく、こんや、どこで ねるの?」とぼうやが尋ねると、おじいさんがお菓子の箱と洗いたてのタオルで、即席のベッドをこしらえてくれました!
それから「おとまりって、おふとんで おはなしするのが、きまりなんだ」というぼうやにしたがって、おじいさんのベッド脇のテーブルに、その箱を置きました。
その晩、おじいさんに怖い話をせがんだぼうやは、おじいさんが眠ってしまった後、ひとりでベッドにいるとだんだん怖くなってきてしまい……。
ぼうやの愛らしさが思いっきり表現され、おじいさんが、ぼうやを胸いっぱいに愛おしく思っていることがわかるその後の展開は、ぜひお手にとってお確かめください。
見栄っ張りで素直な子どもらしい言動を丹念に描く
ほんとうはお母さんと寝ているのに「いつもひとりで寝ている」とうそをついたり、おじいさんが語る怖い話を「その話知ってる」と言ってやめさせたり(本当は怖いだけ?)、苦手な野菜入りのスープを「お腹が空いていない」と言って食べなかったり……。
見栄っ張りで、それでいて素直なぼうやの言動がとても愛くるしく、作者の子どもに対する解像度の高さが随所に感じられます。
本作は、詩人であり、絵本の翻訳家である木坂涼さんがはじめて手がけた幼年童話です。詩人ならではの、テンポがよく、無駄なものがそぎ落とされた言葉と、さとうあやさんの素朴で温かみのある絵を、ゆっくりじっくり味わえる一冊です。
最後に、ぼうやがひとりで留守番をしていて寂しい気持ちになったとき、頭の中で聞こえる声と会話をしていた、という話を聞いたおじいさんの言葉をご紹介します。
「きみは、きょう、すてきな ともだちと あったね。その ともだちは、きみが これから いっしょう ずーっと いっしょに いる だいじな ともだちだ。 つまんないな、とか、ひとりぼっちだな、とか おもって、さびしい きもちに なったとき、さいごに かならず、きみと おしゃべりしてくれる。その こえの ともだちが いることを わすれちゃ いけないよ」
おじいさんのぼうやに対するまなざしがいつも優しく、読み手までその大きな腕に包まれているような、あたたかな気持ちになる作品です。