ウェイサイド・スクールは、そもそも、建てられたときからへんてこでした。本当は横一列に30の教室を並べて建てるはずが、ちょっとした手違いで縦方向に、つまり、30階建になってしまったのです!(とはいえ、校庭が広くなって子どもたちは喜んだとか)このお話の舞台はそんなへんてこな学校の最上階、30階のクラス。どうやら生徒も、そして先生も変わり者のようです……! 小学校高学年から読める、アメリカ発の児童文学。
第1章でさっそく、担任の先生と永遠の別れ!?
「ウェイサイド・スクール」シリーズ(ルイス・サッカー 作/野の水生 訳/きたむらさとし 絵)は、エレベーターなしの30階建ての学校のてっぺんにあるクラスを舞台に、担任の先生と生徒たち、それぞれを主人公にした30のお話からなる短編集です。
まず、第1章の主人公として登場するのが、30の物語の中でも最も強烈に読者の印象に残る「ミセス・ゴーフ」。
ミセス・ゴーフは、ウェイサイド・スクール随一のいやーな先生で、30階クラスの担任でもあります。舌が長くて、耳がぴんととがっているこの先生は、子ども嫌いで、リンゴが大好き。
「言っとくけどね、あんたたち」
「さわいだり、答えをまちがえたりしてごらん。ただじゃおかない」
「片っぱしからリンゴに変えてやるからね!」
いや、まさかと思ったでしょう? でも、そこはウェイサイド・スクール。ある日、ついにこの教室で最初の被害者が出てしまいます! ジョーが、カンニングをしていたところを、ミセス・ゴーフに見つかってしまったのです。
(ミセス・ゴーフの)「とんがり耳がぴくぴくっ。まずは右耳、おつぎは左。それから舌がべーっと突きでて」ジョーはたちまちリンゴにされてしまいました。ついでに、答えをうつさせていたジョンも。
こうして、ミセス・ゴーフの机の上に(生徒だった)リンゴが次々と並べられていき……その週が終わる頃には、クラスの全員がリンゴにされてしまいました。
でも、ここからが、この物語のさらにおもしろいところ。一致団結しやっと元の姿を取り戻した子どもたちが、「鏡」をつかった反撃にでたために……技がはねかえり、ミセス・ゴーフ自身がリンゴになってしまうのです!
物語はこれでも終わりません。呆然とする子どもたちの前に、ふいに校庭係のルイス先生が教室をのぞきにやってきて……足元にみつけたのは、床にころがっている1つのリンゴ。
「はあ、なんか腹へったあ」
「このリンゴ、食ってもいいよね? ゴーフ先生、気にしないよね? いつもいっぱい持ってるもんな」
そして、そのリンゴをひろいあげると、シャツにキュキュッとこすりつけて……
このことは、他の誰も知らない、30階クラスのひみつです。
ちなみに、アメリカではリンゴは先生のシンボルとして使われています(Teacherと書かれた文字の横にリンゴの絵をそえたり、生徒が感謝の印に先生にリンゴをあげたり)。そのリンゴのシンボルである先生が、本当のリンゴになってしまい、最後は食べられてしまうという、なんともいえないブラックユーモアが含まれたお話です。
他にも、前の席に座っている子の長い三つ編みをひっぱりたくて仕方がない(ついには三つ編みに「ひっぱって!」とささやかれる幻聴まで聞いてしまう)ポールの話や、本をさかさにしないと読めないジョンの話など、数ページ読んでくすっと笑える短編が集合しています。
『穴』で全米図書賞、ニューベリー賞他受賞、ルイス・サッカーによる物語
この2冊の本は、『穴』で有名な児童文学の名手ルイス・サッカーによって、1978年に書かれた“Sideways Stories from Wayside School”シリーズの翻訳です。Sidewaysは「横向きの」という意味。本来、横向きに建てられるはずだった学校がひっくりかえって建てられてしまったので、学校の名前は、”Sideways”の前後を入れ替えて”Wayside School”、というちょっとした言葉遊びが含まれています。
今ではタワーマンションがあって30階に住んでいる!なんて子もいるかもしれませんが、さすがに小学校は、高くても4~5階建てくらいではないでしょうか? 学校がまちがって30階建てになっちゃった、というおかしみたっぷりのはじまりに、その先のストーリーへの期待は否が応にも高まります。
登場する先生や生徒たちも、へんてこな学校にふさわしい、変わり者たちなのですが、一方で、読んでいるうちに「あ、あの子に似てる!」「こういう子いるいる」とも思うはず。その子にとっては普通のことでも、隣の子からみたら、すごく興味をひくことだったり、自分だけできる、あるいはできない何かがあったり。30人いれば30通りのその子の教室でのエピソードがあると思います。
あなたのクラスだったら、どんなお話になるでしょうか? そんなことも考えながら、ぜひ、気が向いたときに好きなページを開いて、読んでみてくださいね。