20世紀を代表するニューヨーク生まれの絵本作家、モーリス・センダック(1928-2012)。冨などの作品で知られるセンダックの、もうひとつの名作をご存じでしょうか?
“OUTSIDE OVER THERE” は、前述の2作と並んで「センダック3部作」と呼ばれる代表作です。かつて『まどのそとのそのまたむこう』(福音館書店刊)として出版されていたその作品が、2019年11月、詩人のアーサー・ビナードさんによる新訳で刊行されました。これを読まずしてセンダックは語れません!
いもうとがゴブリンにさらわれた! 取り戻しに向かうアイダの冒険
アイダの父さんは、船乗り。母さんは、航海に出た父さんをじっと待っています。まだあかんぼうの妹の子守りは、アイダがしなければいけません。
「だぶだぶふくの ゴブリンが まどから しのびこんできて、
あかんぼうを さらっていきました。
かわりに おいたのは 氷で できた そっくりさん。
アイダは ちっとも 気が つきません。」
やがて、妹がさらわれたことに気がついたアイダ。「いもうとを とりかえさなきゃ」と、助けに向かいます。
さて、アイダはどうやってゴブリンたちを見つけ、妹を助け出すのでしょう?
大切な人を、ちゃんと見ている? 作品にかくされたメッセージを、アーサー・ビナードさんが読み解く
どんな場所なのか分からない景色、不穏な空の色、表情のない母さんの顔……。ちょっと不気味でありながら、不思議な魅力に満ちたこの絵をよく見ると、実は妹がさらわれてしまう前半には、母さんやアイダ、かたわらにいる犬までもが、みんなそれぞれ別のところを見ているのがわかります。
また、妹を助けに向かうアイダが、「うしろむき」に窓から外へ出たことで、なかなかゴブリンを見つけられない、という場面もあります。
このあとアイダは、海のむこうから聞こえてきた父さんの歌声に耳を傾けたことで、ゴブリンたちの居場所をつきとめます。
今回訳を手がけたアーサー・ビナードさんは、原書の“OUTSIDE OVER THERE”が刊行された当時、中学生でした。センダックが好きだったため、繰り返し読みながらも、本にこめられた意味については当時あまり意識していなかったといいます。しかし、数年にわたり今作の翻訳に取り組むなかで、「この絵本でセンダックは、互いに向き合わない』ということに警鐘を鳴らしていたのでは?」と考えるようになり、今回の新しい訳文が誕生しました。
印刷原画にとても近い鮮やかな色に仕上がった、今回の新訳。ぜひお手にとって、その文章と絵にふれてみてくださいね。
★偕成社では、ほかに5点のセンダック作品を刊行しています。