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絵本&読み物案内

目が見えず、耳も聞こえないキツネの子が過ごした日々。『子ぎつねヘレンがのこしたもの』

2018.06.25

北海道上川郡に暮らし、キタキツネの生態調査や、野生動物のけがや病気の治療を長年続けている獣医の竹田津実さん。その様子は、先日最終回を迎えた、Kaisei webの連載「北の森の診療所」でも紹介されています。
これまで数多くの本を手がけられてきた竹田津さんの代表作が、『子ぎつねヘレンがのこしたもの』です。きょうは、映画化もされたこの本についてご紹介します。

保護されてやってきたキタキツネの子は、これまでの患者とちがっていた

 竹田津さんご夫婦の家では、たくさんの野生動物が保護されています。自分で保護するだけでなく、けがをしたり病気になったりした野生動物が見つかると、みんな「あの先生に」と竹田津さんのところに動物たちを連れてくるためです。
 
 ある春の日、そんな竹田津さんの元に、キタキツネの子どもが運びこまれました。竹田津さんの知人が道路わきで発見したという子ギツネは、数時間も同じ場所にうずくまったままで、近づいてカメラのシャッターを切ってもまったく反応がなかったといいます。
 
 それまでも何匹ものキタキツネの患者を受け入れていた竹田津さんでしたが、この子ギツネの様子はどうもちがっていました。
 目の前で手をゆらしてみても、ほとんど反応がありません。
 手をたたくと、近くだと少し反応がありますが、ちょっと遠くでたたくともう反応しません。近くで手をたたいて反応するのは、空気の動きを感じるからのようです。
 この子は、目が見えず、耳も聞こえていなかったのです。
 

 子ギツネは、ヘレン・ケラーの名前をかりて、ヘレンと名づけられました。

ふつうのキツネなら激しく抵抗する入浴でも、おとなしくしています。

夫婦の献身的な介護、お母さんキツネをつとめる「メンコ」によって、変わっていくヘレン

 
 介抱しているうち、嗅覚も弱いようだと判断されたヘレン。いろいろな感覚がないヘレンに食べものを与えるのは、とても大変なことです。食べものを異物と感じて必死に抵抗するヘレンに苦労しながらも、竹田津さん夫婦はなんとかヘレンの心をひらいていきます。
 

 また、以前から竹田津家で過ごしていたメスのキタキツネ、メンコの存在も、夫婦の大きな助けになりました。後ろ足がなく、他にもさまざまな症状があったために18回もの手術を施されていたメンコですが、子ギツネの患者がやってきたときは、いつも立派にお母さんキツネの役割を果たしてきました。これまでの子ギツネとはちがうヘレンにメンコも苦労しますが、メンコの存在がお母さんを思い出させるのか、ヘレンも心をひらき、しっぽを振るしぐさも見せるようになります。


 はじめは「安楽死」
も考えていた竹田津さんでしたが、変化を見せるヘレンと過ごしているうちに、その選択肢頭から消えていきました。
 
 しかし、さまざまな困難をかかえたヘレンに、新たな症状が出るようになります……。
 

動物たちとまっすぐ向き合う竹田津実さんの、克明な記録とやさしい思い出

 
 本の中では、ヘレンの介護をどのように行ったかや、そのときのヘレンの様子などが、克明につづられています。また、野生動物のこと、動物のけがや病気のことも、分かりやすく教えてくれます。保護したのが、長年動物たちと向き合ってきた竹田津さんだったからこそ、ヘレンの日々が実りあるものになったということがわかります。


 竹田津さんはKaisei webでも、2年に渡って「北の森の診療所」の連載を担当されました。先日最終回を迎えましたが、こちらの連載にもたくさんの野生動物が登場します。美しい写真もたっぷり掲載されています! ぜひご覧くださいね。
 
★『子ぎつねヘレンがのこしたもの』は、「子ぎつねヘレン」という名前で映画化もされています(監督 河野圭太/出演 大沢たかお、松雪泰子、ほか)。


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