舞台はヨーロッパを思わせる、石畳の通りのある街。街角のそこここでおこる小さな物語をひろいあげた、8つの物語からなる短編集です。現実よりも少し先にあるあこがれをかなえてくれる物語で、たくさんの少女たちを魅了してきた高楼方子さんの新作です。
書きだしから物語の世界へひきこまれる!
ピッパ・フィンチは16歳。この年頃の少女らしく、世間をながめてなかなか鋭く一人前の批判などする一方で、とびきり不思議なことに出会うのをまだ本気で夢見ていた。しかも将来の希望は小説家。人々を観察してはあれこれ想像をふくらませるのが好きだった。
これを読んだ瞬間に、読者はピッパ・フィンチという、いかにも明るく理知的な響きの名前をもつ少女を好きになってしまうのではないでしょうか。いたく現実的なところと、夢みがちなところの両面を持ちあわせた、見どころのありそうな子です!
第1章のタイトルは、「彼女の秘密」。
ピッパはアルバイトの子守をする合間に、いつものように窓から石畳の通りを往来する人々を眺めていました。そして、ふと目にとまったのは、特に特徴もない〈女の人〉。けれども、その〈女の人〉が、みんなが必ずつかう抜け道をとおらずに、わざわざ遠まわりの道を選んだのを見たとたんに、ピッパお得意の空想がはじまりました––––(彼女はなぜ横丁を避けたのか? その人知れぬ秘密とは!)–––。
自分なりの想像をくわえて読むのもおもしろい
全部で8つの物語。それぞれが、この街でくらす別の人物を主人公にしたお話ではありますが、ときたま章をこえて、共通して出てくるモチーフもあります。どこからが空想でどこからが真実なのか……自分なりの解釈をくわえて読むのが楽しい作品。それぞれのお話にそえられた、出久根育さんの描く鉛筆画もぴたりとあっていて、絵のページにたどりつくたびに自分のイメージとくらべながらも、うれしい気持ちになる1冊です。