保育園の4月当初は、子どもたちの泣き声が部屋にひびきわたります。
今まで家庭で生活していた子は自分の置かれた立場がなかなか理解できません。1歳になっていない子たちは全身で泣いて、保育者のどんな言葉がけも聞こえない。
園長であるわたしも子どもを抱っこして、「大丈夫、大丈夫」と言いながら、音を鳴らしてみたり、外に連れ出してみたり。その子の好きなものはなにかなあと試行錯誤。
幼児クラスの子も、泣きながらいすを玄関のところに持っていって「ここでお母さん待ってる!」と、涙を流しながら駐車場をながめています。
先生たちも「絵本見る?」「おなかすいちゃうよ」と声をかけますが、頑として動かない子もいます。
はじめての園でどれだけ泣いても、園に慣れない子は見たことがない
すごいなあと思うのは、子どもたちは泣きながらもちゃんといろんなものを見ているということ。泣きやんで動き出すと、友だちの名前やタオルなどを置く場所、どの先生に声をかけたらいいか、ちゃんとわかっています。
どれだけ泣いていても、園に慣れない子を見たことがありません。時間がかかる子はいるけれど、長くても3か月!
保育者のわたしたちは、「大丈夫、見ているよ」というまなざしを子どもたちにむけています。それを受けとった子どもたちはなにか困ったことがあると目で先生たちを探します。
だめなことには静かに首をふったり、いいことにはにっこり笑ってうなずいたり。保育園では、ひとりで何人もの子を見るので、目で会話することがたくさんあります。
わたしは、子どもを見るおとなのまなざしが、子どもを育てると思っています。
絵本『くまさんくまさんなにみてるの?』は、おとなのまなざしを描いている?
『くまさんくまさんなにみてるの?』(エリック・カール 絵、ビル・マーチン 文、偕成社編集部 訳)という絵本をひらくと、この絵本の作者もやっぱりそんなまなざしを持っているのだと感じます。そんな気持ちで、子どもたちに絵本を読みます。
ちゃいろい くまさん、あかい とりさん、あおい うまさん……絵本にでてくる動物たちが、同じ茶色でも濃淡があったり、影があったりするところも、いいなあと思います。
「おかあさん おかあさん、おかあさんは、なに みているの?」という問いに、お母さんが「だいすきな こどもたちを みてるのよ」と答える場面が。
子どもたちはいろんなものを見ていて、そしてやっぱりちゃんとお母さんを見ているのです。
この絵本に描かれていることは、おとなのまなざしの大切さなのでは……?と考えます。学んでほしいことをたくさんの言葉で伝えることも大切だけれど「大丈夫、見ているよ」というおとなのまなざしが、子どもたちを育てていくと思うのです。
そしてそれは、自分の子どもだけでなく、すべてのおとなたちが子どもたちにむけるまなざしであってほしいなあと思います。