おばけの絵本は、本当に子どもたちに人気があります。夏だからというわけではなく、いつでも読みたくなるので、季節に関係なく、おばけの本を置いています。
おとなが読んでもこわいと感じる、絵本『学校ななふしぎ』(斉藤 洋 文/山本 孝 絵)。この絵本を保育園の本棚に置いてみると、子どもたちは興味しんしんで手にとる。ページをめくって、トイレの花子さんの絵を見てあわてて本棚にもどす子、「読んで!」と持ってくる子など、さまざま。「おばけ」「こわい」と単語を発しながら、「読んで」と言うようにこの本を持ってきた1歳児もいた。
年長の男の子のひとりも、この絵本をとにかく気に入っていた。「こわいけれど、見たい」という複雑な気持ちが、表情から伝わってくる。「読んで!」と持ってくる日があれば、ひとりでページをめくっている日もある。
「こわい」という気持ちを楽しみたい子どもたち
音楽室や理科室の雰囲気、校長室に飾られた写真など、わたしは自分の小学校を思い出してなつかしい気持ちになる。しかし、まだ小学校へ通っていない子どもたちが、なににこんなにひきつけられるのだろう?
子どもたちは「こわい」という気持ちを楽しみたいんだと、思う。
わたしが子どもだった頃、夜は家の外が真っ暗闇になった。わたしは「こわい」気持ちを楽しむために、外をちょっとのぞいてみたり、電気を消して大騒ぎしてみたり。でも今は、夜になっても街灯のあかりが明るくて「こわい」という気持ちを日常の生活の中で感じることが少なくなっている。
だから、子どもたちは絵本の世界で楽しんでいるようだ。こわさを楽しみたいのは、子どもにとって、ごく自然な感情なのかもしれない。
トイレから二度とでてこられなかったり、あの世にまで連れていかれたりするけれど、『学校ななふしぎ』は、絵にユーモアがひそんでいて、じっくり見たくなる。こわい絵本を見てみたい、感じてみたいと思う子どもたちの気持ちは尊重するのが良いと思う。おうちの方も、子どもと一緒に楽しめるといいですね。
「こわい」絵本といえば、こんな本
『ねないこだれだ』(せな けいこ 作・絵、福音館書店)
最後に、おばけの世界へつれていかれてしまうなんて、子どもたちもびっくり。こわがっても、何度も何度も「読んで」とわたしのところへ持ってきます。
『やねうらべやのおばけ』(しおたにまみこ 作・絵、偕成社)
知らない間におばけが家に住み着いているなんて、考えてみたら、ちょっとこわい! 木炭鉛筆で描かれたこの本は、夜の世界を描きながらも、ほっとして優しい気持ちになれる。「このおばけ(本当に)こわいの?」と何度も聞いてくる子もいました。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。