毎日、痛ましい戦争のようすが報道されています。小さな子どもを持つお父さんやお母さんは、現地の子どもたちのようすに心を痛め、これから先、じぶんたちの子どもがおとなになるときには、どうなっているのだろうと不安が大きくなっていると思います。
戦争の痛ましさを、どう子どもたちに伝えたらいいかということは、とても難しいことです。
毎日楽しく遊んでいる子どもたちに、戦争のことをわざわざ言う必要がないような気もします。
しかし、戦争は絶対にあってはいけないことだということを、子どもと関わるおとなは、子どもたちに伝えていく必要があるとわたしは考えます。
子どもがなにかを感じてくれるといいと思い、あえて戦争の本を読む。
広島の原爆のことをかいた『ひろしまのピカ』(丸木俊・文 絵、丸木位里・協力、小峰書店)という絵本を4歳の子に読んだときのこと。見るのがとても辛い場面もある絵本ですが、その子は静かにじっときき、読み終わったときに「いやだね」と一言言いました。「うん、戦争はいやだね」とそれだけ返事をしました。
深いことはまだわからなくても、子どもたちがなにかを感じてくれるといいなと思い、わたしはあえて、戦争の本を読み続けているような気がします。
同時に、地球にはさまざまな人が住んでいるのだということも伝えられたらいいなと思います。
どこの地域でも、多くの保育園の子どもたちは、ブラジルやベトナム、フィリピン、中国とさまざまな国や地域にルーツを持つ子たちと一緒に生活しています。子どもたちは、なんの区別もせず遊んでいます。国がちがう人たちと関わることってすてきなことで、いがみあうことではないはずです。
戦争によって失われる大切な命を想像する力を、絵本が後押ししてくれる。
戦争のない平和な世の中を願うことは、目の前にある命に思いをはせること。子どもたちには、戦争によって失われる命を想像できる感性をもってほしいと思うのです。
そんなとき、絵本があります。
絵本を読むとき、おとなは、絵本が、子どもたちに想像する力をつけてくれると信じて、平和を願う気持ちをこめて読む。そうすると、子どもたちに伝わることがあるのではないかと思います。
『おひさまとおつきさまのけんか』(せなけいこ・作 絵、ポプラ社)
おつきさまが遅刻したことからはじまった、おひさまとおつきさまのけんか。「おひさまは いばりすぎだ! やっつけなくちゃ! これは せいぎの せんそうだ!」という言葉のあとに「せんそうが いいはずないのに そんなの うそっぱちだ。」と、著者の思いとも推測される言葉がある。おひさまとおつきさまが怒っている顔は、子どもたちにもわかりやすく、2歳の子が「けんかしたらだめだね」と言いながら見ていました。戦争はだめなのです。
『へいわとせんそう』(たにかわしゅんたろう・文、Noritake・絵、ブロンズ新社)
白黒で描かれたシンプルな絵本。平和と戦争のちがいが、「へいわのボク」「せんそうのボク」というように両側に描かれている。平和のほうがいいなあと思っていると、「みかたのかお」と「てきのかお」、「みかたのあさ」と「てきのあさ」、「みかたのあかちゃん」と「てきのあかちゃん」のところでは、同じ絵が描かれている。どうして戦争なんてするのかという疑問が、子どもたちにも伝わるのではないかと思う。
『あいうえおの き』(レオ・レオニ・作、谷川俊太郎・訳、好学社)
「あいうえおの き」には、文字がたくさんある。そこに「ことばむし」がやってきて、言葉を作ることを教えてくれる。文字たちが手をつないで言葉を作れば、木からふきとばされずに済む。次に、毛虫がやってきて、「ぶんを つくったら どう?」という。文字たちは、文で書くべき、大事なことはなにか考える。「平和より大事なことがあるだろうか?」と考えた文字たちは、「ちきゅうに へいわを すべての ひとびとに やさしさを せんそうは もう まっぴら」とつづります。いま、子どもたちと一緒に読みたいと思う一冊です。
『へいわってすてきだね』(安里有生・詩、長谷川義史・画、ブロンズ新社)
沖縄の小学1年生が書いた詩が絵本になった作品。詩の一節に「みんなのこころから、へいわがうまれるんだね」とある。わたしはこの言葉がいいなあと思う。最後のぺージには、絵を描いた長谷川義文さんの「理由なんてないのです。人々を殺し、傷つけることはまちがいです」という言葉があります。こんなあたりまえのことが、あたりまえでなくなる姿を、子どもたちに見せてはいけない。1年生の安里君が、平和の大切さを教えてくれます。
『六にんの男たち なぜ戦争をするのか?』(デイビッド・マッキー・作、中村浩三訳、偕成社)
文章は長いけれど、人の表情や動きがシンプルなだけにわかりやすい。武装している人はみんな同じ格好で、同じ方向を見ていて、戦争では、一人一人の考えや思いなんてなくなるのだということが、子どもたちにも伝わるのではないかと思う。なぜ人は戦争に向かってしまうのか? 戦争はとてもむなしくて意味のないことなのだということが、この本から伝わってきます。平和な暮らしってなんだろう? と考えさせられます。
『世界のともだち35 ロシア セミョーン北の国の夏休み』(安井草平・写真 文、偕成社)
ロシアの子どもたちは今どうしているのだろうと思う。このシリーズはそれぞれの国や地域の1人の子どもを通して、その国を見るというコンセプトの本で、ロシアの本に登場するのはセミョーン君。ウラジオストクに住んでいる。どこの国にも、家族がいて、家族に守られて子どもたちは生きている。私たちとおなじように過ごしている子どもたちのことを改めて思う。ソ連時代に政府がどの家庭にもあたえたというダーチャ(別荘)にホームステイしたい気持ちにもなります。どうかおとなたちが、この絵本に出てくる子どもたちの笑顔を大事にしてくれますように。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。