入園や入学の春。わくわくする一方で、不安もいっぱいですね。
特に保育園の入園は、母親や父親の育児休業明けと重なっていることもあり、「仕事と子育ての両立ができるかな」という不安はとても大きい。仕事に行っていなくても、「春から子育て支援センターに行ってみよう」など、子どもたちのために、新しくなにかをはじめようと考えている方も多いと思います。
子どもが新しい環境に慣れるかどうかということに関しては、個人差がとても大きいと思います。
「新しい環境が苦手」という子でも、一人一人、どんなことが苦手なのかは、ちがっています。
大勢いる場所が苦手だったり、トイレに行くのがこわかったり、自分が予測できない事態が起こることが不安だったり、すぐに慣れたと思っていたら、突然「行きたくない!」と泣き出したり……。
まわりのおとなの不安が、そのまま子どもの不安になっていることもあります。
子どもたちは順応性が高い。焦らなければ大丈夫。
考えてみると、知らないおとなが親しげに声をかけてくる保育園や幼稚園って、子どもたちにとってはこわいところかもしれません。
けれども、子どもたちは順応性が高いので、焦らなければ絶対に大丈夫。
毎朝、お父さんやお母さんから離れるのに時間がかかったり、入園してから3か月間ずっと外を見ながら泣いていたりする姿を見て、保育者としても切なくなることがあります。
でも、子どもたちは、泣きながらでも冷静にまわりを見ていて、泣きやんだときに、園の流れをすでに把握している、なんてことも。そんなときは、泣いているばかりに見えて、しっかりアンテナをはっていたんだなあと感心してしまいます。
泣いている子どもたちに対する親の対応もさまざまで、「いいかげんにして!」と怒ってしまったり、「お母さんはお仕事だからね。お話したよね」と説得したり、切なくなって子どもと一緒に泣きそうになってしまったり。
お母さんたちだって、はじめてのことなのだから、どうしたらいいのかわからないですよね。
子育てに正解はないので、辛かったらだれかに相談にのってもらうとか、親子ともに起きる時間を10分早くして、10分間は子どもにべったり付き合う時間にするとか、具体的な対策を講じるのもおすすめです。
たとえ小さい子でも、きちんと伝えてあげてほしい。
子どもに対しては、「すぐ迎えにくるからね」といううそをつくのではなく、「〇〇時に迎えにくるよ」と、たとえ小さい子でもきちんと伝えてあげてほしいと思います。子どもたちはよくわかっています。
保育者は、お母さんやお父さんが仕事に行く時間を考えて、「ごめんね」と思いながら、親から無理やり引き離して、「いってらっしゃい」と見送ることが日常的にあります。
だからこそ、わたしたち保育者は、子どもたちが楽しめる環境を用意します。わたしは、子どもが泣きやんでふと気がついたら、そこに自分のことをわかってくれるおとながいた、と感じてもらえる存在でありたいとずっと思ってきました。
それぞれの場所での、新生活。こんなときこそ、絵本があります! 子どもたちが、保育園や幼稚園に行くのを楽しみにしてくれるような絵本を、親子で楽しんでくれたらいいなあと思います。
『といれ』(新井洋行・作 絵、偕成社)
1歳から2歳の子どもたちに人気がある絵本。トイレがそのまま絵本になっているような作品です。「保育園のトイレ、どんなトイレかなあ」「大きいかなあ、小さいかなあ」「おむつはどこでかえてくれるかな」と、話をしながらページをめくり、保育園の持ち物のおむつに名前を書いていくのもいいかもしれません。保育園でおむつ替えをしながら、お母さんやお父さんとの会話を思い出してくれるかも。子どもたちにとって、うんちやおしっこは身近なものなので、園での生活を支えてくれる1冊になるかもしれません。
『ゆっくりにっこり』(木島始・作、荒井良二・絵、偕成社)
「いつもひっこしをしているのはだれかな?」とクイズのように問われるので、子どもたちは考える。おひさまやありの引っ越しはわからないけれど、かたつむりやカンガルーはわかる子もいて、正解するとうれしい。そして、1年に1回引っ越しするつばめがのぞいている小学校では……。学年が変わることを引っ越しと表現しているのがおもしろい。あわただしく1つ大きくなるというより、のんびり引っ越しする感覚だと、子どもたちにプレッシャーもかからないかも。そう。タイトルはゆっくりにっこり!
『シロクマくつや ちいさなちいさなうわぐつ』(おおでゆかこ・作 絵、偕成社)
新しく幼稚園ができるので、こりすの上靴を103匹分作ってほしいと手紙が届く。できあがった小さな上靴を、しろくまの3兄弟が持っていく。でもまだ幼稚園には遊具が足りなくて、巨人のぼうやも一緒にみんなで、それはかわいい遊具を作っていく。実際、保育園では3月に、新入園児を迎えるために保育者や年長児と準備をすすめる。くすくすえんの園長先生が「こどもたちには さいこうの ようちえんにしたいのだけれど」とため息をつく場面があるのだけれど、どこの園でもそう考えているはずです!
『ようちえんいやや』(長谷川義史・作 絵、童心社)
幼稚園や保育園に行きたくない!と泣く子を大勢見てきました。保育園の門のところや玄関で「いやだ~!」と大声で泣かれると、保育者としては辛いところ。子どもたちは夜寝る前や、朝起きたときや、車や自転車をおりるときになって、「行きたくない」と泣く。おうちの人たちはそんな子どもを見て心配になる。「いじめられているんじゃないかな」「なにがそんなにいやなんだろう?」と。この本では、子どものなく理由がさまざまでおもしろい。最後は「おかあちゃんと いちにち いっしょに いたいだけ なんやー」で終わっている。子どもたちって、なにがあってもやっぱりお母さん・お父さんがいいのだとわたしも思います。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。