着替えにとりかかるのに時間がかかったり、着替えを嫌がったり、朝の忙しい時間にイライラすること、よくありますね。
本当に、子どもたちって、だらだらするのが好きだなあと思います。着替えも、やらなければしかられることがわかっているのに、なんでやらないのかなあ、と。
でも、子どもたちのこの意味のない時間は、大事な時間かもしれない。
子どもたちは、ずっとまわりのことにアンテナをはって、常に何かを吸収し、次から次へと細胞が作られている。
次にやらなくてはいけないことがわかっているからこそ生まれる、だらだらした時間。これも、子どもたちにとって大切なようだから、「片づけしないなら、もうお散歩は行けないよ」みたいな脅しはよくない。
保育園では、「5分待ったら、きっとできるよ」と保育士に話しています。
とは言っても、実はわたしも、泊まりにきた孫に
「早く着替えないなら、ひとりでお留守番ね」
「やだ!」
「じゃあ、早く着替えて」
「やだ!」
「遅刻しちゃうでしょ」
「いいよ」
「もう、自分でやれるよね!」
というやりとりをした上、待つことなんてしないで、着替えを手伝ってしまっています。
えらそうなことを言っている保育者でもそんなものです。
「自分でできるはずなのに」と思うと、本気で腹を立ててしまう。
考えてみると、ついこの前までは、優しく言葉がけしながら着替えさせていたのに、「自分でできるはずなのに」と思うと、本気で腹を立ててしまうのはどうしてでしょう。まだ生まれて2、3年の子なのに不思議です。でも、そうやって葛藤しながら、面倒くさいこととつきあっていくのが、子育てなのかもしれません。
まわりの子はさっさとできるのに、なぜ、うちの子は着替えひとつできないのかと悩んでいるおうちの方に、保育園ではたくさん出会ってきました。朝、登園してきたときにお母さんの顔に、「もう、いいかげんにして!」と書いてあることも。
着替えをする気になっても、「これ着る!」と、とんでもない配色の服をだしてきたり、季節が合わないものなのに、好きなキャラクターがついているからどうしても着ると言ってきかなかったり。
まあいいかと本人の着たい服を着せて保育園へ連れていくと、園でほかの子どもたちから注目を浴びて、子ども自身が恥ずかしくなって着替えることもありました。
「くつしただけは自分ではいてね」と、具体的に伝える手も。
でも、朝起きて、顔を洗って、ごはんもちゃんと食べて、さっさと着替える子どもは、あまり見たことがありません。
「くつしただけは自分ではいてね」
「ボタンはやってあげるから、自分でそでは通してみて」
と、全部の着替えを求めないで、具体的な行動で伝えてみると、見通しができて着替えられることもある気がします。
そのままはいたり、かぶったりできるように、順番にならべてから「自分で着てごらん」と言うと、意外とスムーズに着られることもあります。
朝のひとときに、だらだらしたい、着替えたくないという気持ちを全面にだせる場所があるって、考えてみたら、子どもにとって幸せなことなのかもしれません。それに、子ども自身が、だらだらしたい気持ちをがまんして、自分から着替えられるようになる日もすぐやってきます。
着替えをテーマにした絵本はたくさんあります。
着替えをテーマにした絵本は、たくさん出版されています。きっと「子どもの着替えで困る」が、多くの人にとって共通の悩みだからですね。
『パンツの はきかた』(岸田今日子・作、佐野洋子・絵、福音館書店)
パンツを旗のように持って、ピンク色のブタがなんともキリッと意思のありそうな顔をしている。このおすまし顔のかわいいブタが、パンツのはきかたを教えてくれる1冊。最後に楽譜がついているので、歌いながらページをめくり、子どもたちがパンツをはくときにも歌うと、うれしそうにパンツをはきはじめる。じょうずにはけた2歳のかいくんは、「あってる!」と裏がえしじゃないことをアピールしていた!
『もう ぬげない』(ヨシタケシンスケ・作、ブロンズ新社)
ヨシタケシンスケさんらしい、ユーモア絵本。服を脱ごうして、頭がひっかかって脱げなくなった子。そうなったのは、「おかあさんが いけないんだ」と訴える。そして、このままずっと服が脱げなかったらと空想するのが、なんともおもしろい。そして、その子どもの思いとは別に、現実的なお母さん。でも、このお母さん、子どもがやっていることを見守っている時間があって、なかなかいいかも?
あかちゃんのあそびえほん10『おきがえあそび』(きむらゆういち・作、偕成社)
このシリーズでは、着替えも遊びに! こいぬのコロ、ねこのミケ、かいじゅうさんもじょうずに着替えができないのに、ゆうちゃんは、チャックもボタンもさっとできる。服を脱いで、パジャマに着替えるまでがしかけ絵本に。自分で着替えをしているゆうちゃんを見て驚く動物たちが描かれているところや、着替えができた後に褒められる姿が描かれているところがいい。「おやすみなさーい」と言うゆうちゃんの後ろ姿が、「自分でできたらうれしいね」ということを物語っている。
『はけたよはけたよ』(神沢利子・文、西巻茅子・絵、偕成社)
1970年に発売以来、50年以上ずっと読みつがれている絵本。ひとりでパンツをはけないたつくんが「パンツなんか はかないや」と外へかけだしていく。いぬ、ねこ、ねずみ、うし、うまがきて、たつくんのしっぽのないおしりを見て笑う。動物が鳴きながらたくさん登場するページが、子どもたちは好き。作者のあとがきも、読み物のようで楽しい。本当は自分でパンツをはきたい子どもたちを応援してくれる1冊です。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。