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書評コーナー

『つかまえた』(田島征三 作)

生きて流れている水、子どもの魂のまんま!(増田喜昭・評)

2020.07.09

 夏だ、海だ、山だ、川だ、水だ。あたりまえのように叫んでたのが、ウソのように静まり返っている。学校のプールは閉ざされ、ましてや、川や海で泳ぐ子どもはほとんどいない。

 ただただ、暑い夏は、クーラーのよく効いた部屋でゲームをするのか? いや、宿題があるのか?

 夏休みの宿題は川に飛び込んで、魚を一匹捕まえること。なんてことはないよね。でも、いったいどうなってるの? 夏は、子どもは、水と遊ばないと、水に入らないと、元気出ないんじゃないの?

 わずか六〇年前、わが家は井戸水で暮らしていた。薪でご飯を炊き、川で洗濯していた。川には魚がいて、夏になると、潜って魚を捕まえていた。捕まえた魚は食べた。「食べないんなら川へ返してこい」と祖父にしかられた。わずか六〇年の間に、ぼくの村は、町になった。川にはフタがされ、道路になった。たくさんの田や畑や里山は、住宅地になった。

 それでも、ぼくは残された鎮守の森で、子どもたちと虫をおっかけている。川の中を歩いて登って、川のはじまりを見に行った。人は、山、川、海のサイクルの中で生きているんだということを、子どもたちと、再確認してきた。『全国こども昆虫キャンプ』『川のぼりハイキング』などと、名前付けて、本屋さんなのに、夏になると、外に飛び出している。

 昆虫キャンプでは、二日目から、捕まえた虫の標本作りが始まる。はじめて参加した子どもの中には、虫を殺せない子もいる。捕まえた瞬間、捕虫網の外から、蝶の胸をキュッとつまんで、しめるのだ。指の先で小さな命が動いている。そっと、ていねいに、蝶の美しい羽をきずつけないように、三角紙に入れるのだ。このときの真剣な子どもの顔が、ぼくは好きだ。

 川のぼりでは、ザブザブと川のまん中を歩く。川から眺める町は、いつもとちがった風景だ。風が通りぬけて、気持ちいい。どんどん登っていくと、水はすきとおる。魚が見える。鳥が飛んでくる。

 田島征三の新刊、『つかまえた』を読んで、まっ先に思ったのは、服のまま、ずぶぬれで、笑っている子どもたちの顔だ。もちろん、その中には、子どもの頃のぼく、あの素晴らしい自伝的エッセイ『絵の中のぼくの村』の中の田島征三少年もいる。

 太い線で、ぐりぐりと力強く描かれる水の動き、川の色。まさに、この地球の血脈のごとくの川の流れと、飛びはねる命のかたまりが描かれる。

 そういえば、子どもの頃、仲間といっしょにヘビを捕まえたことがあった。しっぽを持ってふり回し、地面にたたきつけて(ぼくは気が弱くてできなかった)、あら死んじゃったと、川の中へほうり投げると、すぐに生き返って、スイスイと泳いで行ってしまった。

 水には、不思議なパワーがあると知ったのは、きっとその頃からだ。流れ動いてるはずの水は、いまやペットボトルに入って売られている。

 しかし、田島征三の描く水は、絵本から飛びはねてくる。生きて流れている。「にがすもんか にがすもんか」の少年の顔は、命がはじける子どもの顔だ。「魚を だいて 魚に だかれる」の子どもは、まさに天使だ。

 何度も何度も、ページをめくって、絵をよーく眺めてみてほしい。

 水と少年と魚。暑い夏の思い出とが、子どもの魂のまんま描かれている。


増田喜昭(ますだよしあき)

子どもの本専門店「メリーゴーランド」店主。1950年三重県四日市市生まれ。1976年に四日市店、2007年に京都店を開店。ひとりひとり個別に本を選んで送る〝ひげのおっさん〟のブッククラブが人気。夏は昆虫キャンプ、冬はスキーツアーなど、日本全国の子どもたちと、その土地ゆかりの作家たちを交え、遊びと学びのあるイベントを国内外で行っている。著作に『えほん・絵本・134 子どもと大人をつなぐ。』(学研プラス)、『子どもの本屋、全力投球!』『子どもの本屋はメリー・メリーゴーランド』(晶文社)、『そんなときこんな本』(メリーゴーランド)などがある。

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