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北の森の診療所だより

第14回

8月 葉っぱとにらめっこで夏が終わる

2017.08.21

  たたきつけるような夕立がアフリカを思い出させた。自然を大切にするとは、手間ひまのかかることと知る月。別に地球が滅びるとは思わなかったがリンゴの木を植えた。6本。5年前のことである。現金なもので散歩のたびに見上げることが多くなった。7月の終わり、大型のエゾシロチョウがとんでいた。久しぶりに見ると少し感動した。

森の小道

 かつて住んでいた道東の地で5年余り夢中になったことがある。わずかに10ヘクタールの地に10万頭(チョウはなぜか昆虫なのに一匹、二匹とは言わず一頭、二頭と数える)を超える大群にふくれあがり、自然界のパンデミックという一大イベントを期待した私を裏切り全滅してしまった。ある集団が異常に数を増加させるとストレスとなり、組み込まれたウィルスの働きによってアウトブレイクを防ぐという学説がある。それかどうかはわからなかったが、わずか1週間、みごとな死滅ぶりで、これもまた私を感動させた。食草はエゾノコリンゴ。野生種であったために誰も何ひとつ言わなかった。

エゾシロチョウの大群

 それが我が家の庭に舞う。悪くないとつぶやいてある事に気づいたのはずっとあとのこと。お盆を過ぎていた。脚立を持ってリンゴの木の下にかけつける。う~んとうなり続けたのだった。エゾシロショウの幼虫は集団で生活する。集団で食べ集団で眠り、そして集団で越冬する。その集団があちこちにある。リンゴの葉を片っぱしから食べている。どうやらここを住処と決めたのは前年のことらしい。少群ながらも今年、その木で羽化し、そしてあちこちに産卵したのだった。まだ若く花をつけないから私ものぞき込みもしなかった。そのせいである。悪いのはリンゴが花をつけないからだと脚立の上からブツブツ。

りんごの葉っぱにびっしりとむらがるエゾシロチョウの幼虫

 殺虫剤。常日頃、あれは使わないようにしようなどと青臭いことを言っている手前、それはならず。結局一週間も一枚一枚の葉っぱとにらめっこすることとなった。老眼とピンセットを酷使して。大好きだったエゾシロチョウが少し嫌いになっていた。おかしいぞと苦笑いする。

 ジャガイモの花も麦秋もあまり楽しめずに夏が終わる。採ったハスカップの実に客がやってきて勝手にうまいと言って帰っていった。

ハスカップの実の入ったザルを、お客のリスが覗き込む

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profile

  • 竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

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