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北の森の診療所だより

第9回

雪が氷雨となる、3月

2017.03.20

 ベランダに置物がある。近くに住むお百姓さんの山崎伸一さんが持ってきた。
「先生の庭に一番似合うから」というのが理由である。ジョッキを片手に、うれしそうなおとうさんの像である。
酒屋の店先にあったものだそうだ。足元の大きな樽に水を溜めると、夏の間小さな水場となって自然のお客さんたちの、給水場、浴場、遊び場となっている。
その名残か、冬でもお客さんたちは決まって立ち寄ってゆく。
シメやコゲラ。

 今冬は雪が早かった。10月28日のそれが根雪となった。雪の早い年はエゾクロテンが早くやってくる。山の雪に追われて里に来ると言われている。
だが自然界はいつも例外を用意する。
今冬がそうである。
クロテンが来たのは2月の中旬であった。おとうさんがジョッキを持つ手に、時々ぶら下がって遊んでいるといって
客人を喜ばせた。それが遅れてきたクロテンの仕事だった。昨年と同じ個体であった。
足跡から連れがいることがわかった。

 3月は北国でも春である。夜でもせいぜい氷点下10度前後。
そこで裏のドイツトウヒの森でいっしょに遊ぶことにした。椅子と机を持ち出し、ブラインドを張る。赤色のランプをつけ、彼らのあとを追う。
ベランダのすぐそばにある、積んだシイタケのほだ木の中と、トウヒの森の倒木の下が彼らの冬の住み処である。
毎夜、3時間あまりいっしょに遊ぶ。


 彼らは夜の森は自分たちの世界であることを知っている。
暗くなると、私がブラインドを出ても知らん顔。我がもの顔である。
雪の夜の森は自分たちのものと決めている。

 ある日、雪が氷雨に変わった。
冬が終わったと、枝々につく氷が風に吹かれて
チリチリと合唱を始めている。

 そんな日、積雪の少なくなった倒木のかげをのぞいたら、羽毛の塊があった。エゾライチョウのものらしい。ウッヒッヒとうれしそうに食べるクロテンの姿が目にうかんだ。

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profile

  • 竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

2024.12.13

こちらから与えてしまいがちな子育てですが、そんなことはしなくても、周りの人・自然・毎日の生活こそが、子供にとって大切なんだと思いました。物語の中でこわがっている子供のアライグマに「行かなくていいよ」とは言わず、一緒についていこうともしないお母さんはえらいなと思いました。(読者の方より)

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