icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r icon-close_01

作家が語る「わたしの新刊」

東北の大河を空からご案内!「日本の川」シリーズ最新作『きたかみがわ』村松昭さんインタビュー

2022.12.27

日本の各地の川を絵本にしてきた村松昭さん。最新作でとりあげたのは東北地方の大河・北上川です。今回は、土偶の神様とお使いの少年が案内役となって、川とそのまわりのくらしを鳥瞰図(鳥の視点で描いた地図)で紹介します。本作のきっかけや、村松さんが絵地図作家となるまでのお話など、東京・府中のアトリエでお話を伺いました。

今回「日本の川」シリーズで第8作目となりますが、北上川を選んだのはどうしてですか?

自分の仕事として、これまで東北の川をあまり描いてこなかったんですね。それともちろん震災のこと、また興味を持っている縄文文化の遺跡も多いので、やるなら北上川しかないと思っていたんです。それで何度か、折りたたみの地図としてはやろうとしていたんです。2010年代に東京の墨田川を中心に川の研究会があって、かつてそのグループに入っていました。そのなかに北上川流域から参加している方もいて、それを縁に取材にも行っていたんですね。でもどこか「これは地元の人がやる仕事かもしれない」といった気持ちでもいたんです。なのでしばらく自分のなかで置いておきました。

机の上の絵本のラフをめくる村松さん。色鉛筆がズラリと並んでいる。

ラフを検討する村松さん。ご自身の絵地図も売っている、ログハウスのようなすてきなアトリエ。

そのうちにその研究会も活動が減ってきて、これは機会を失ったかな、と思っていました。ただちょうどそのころ、偕成社の編集者と「三陸海岸」や「さんま漁」をテーマにした絵本を考えてもいたんです。2016年から2018年ごろですね。かなり力を入れていたんですけど、結局形にならなかった。その後、その編集者が「やっぱり『きたかみがわ』をやりましょう」と提案してきたんですね。ここまでやってきたことで、東北地方の資料はかなり集まっていたので、これはできる、そう思いました。そんな流れでしたね。

さんま漁船の絵。えんぴつ画の絵本ラフ。

絵本「さんまりょう」のラフ。ネコが漁船に乗り込んでさんま漁を紹介する作品だった。

50年以上絵地図を描いていらっしゃるわけですが、村松さんがこうした鳥瞰図を描くようになったきっかけは、どんなものだったのでしょうか?

私は高校を出て桑沢デザイン研究所に入りました。で、いろいろあって、途中でやめて、東京・調布のスーパーマーケットのデザイン部で働きました。そのかたわら、やっぱり絵は好きで、油絵やリトグラフなんかをやっていたんですね。ちょうどそのころ、そのスーパーが調布の深大寺近くに貸しホールを作って、カルチャーセンターを開きました。そして管理人としてそこに住まわせてくれました。

しかもそのホールを、空いている時間帯はアトリエとして使わせてくれたんです。そこで深大寺とその周辺案内図を版画で作ってみたんです。鳥瞰図でした。それがとても好評で、深大寺でも売ってくれることになりました。「江戸の昔から、お寺では周辺の案内図を売っていた」といって。1970年代のはじめの話ですが、これが鳥瞰図を描くようになったきっかけですね。

深大寺とその周辺の案内図。

「鳥瞰絵地図師」は深大寺からはじまったわけですね。川を描くようになったのはなぜですか。

私は山歩きも好きだったもので、しぜんと奥多摩や秩父、丹沢、高尾山など、地元の府中に近い山の地図なども描くようになりました。そんなとき山の仲間が「もう歳で山はむずかしい。これからは川歩きだ。でも源流から河口までを通した地図がないんだ」という話をしていたんですね。その人は、シャクトリムシみたいに、10日にわけて多摩川を歩き通したそうです。でも地図がなくてたいへんだった、と。

それを聞いて、以前見たヨーロッパのライン川の地図を思い出したんです。折りたたみで源流から河口までを紹介したものです。ああこれを多摩川でやったらいいだろうなあ、と思いました。多摩川は私が子どもの頃、朝から晩まで入りびたっていた川です。泳いだり魚をとったりして、学校以外の居場所は、すべて多摩川でした。だからよく知っていたんです。それで「多摩川散策絵図」を作りました。川の地図をはじめたのは、まあそんなことからです。

アトリエには、村松さんがつくった地図がズラリと並ぶ。

今回の絵本『きたかみがわ』の見どころはどんなところでしょうか。

北上川の流域は、縄文遺跡にはじまって、古墳時代のエミシの遺構、平安時代の奥州藤原氏が栄えた平泉、江戸時代からの下流の治水事業など、昔から人びとのくらしと深くかかわってきた川です。東北地方を南北につらぬく大河ということもあって、歴史が壮大で、深い。さいきんのことでいえば、もちろん下流域の震災被害についても語るべきことがたくさんあります。こうしたものを、見る人がそれぞれに感じてもらえればうれしいですね。

川岸でスケッチをする村松さんのアップ。背景には川

『きたかみがわ』の取材の様子。写真だけでなくその場でスケッチも。2021年10月

本作のあと、どこか描く予定はありますか?

これは偕成社ではないんですが、一枚もので神奈川県の相模原市から山梨県の山中湖のほうまでを一望できる「奥さがみ」の鳥瞰絵地図を描いています。2021年の東京オリンピックで自転車競技のコースにもなった、道志川あたりです。このあたりの呼び名は決まったものがなくて、「奥さがみ」ってつけたんですけど、なかなかいい呼び名だと思っています。

壁にかけられた「奥さがみ」絵地図のラフ。こまかく地名なども手書きで書き込まれている

一枚ものの「奥さがみ」ラフ。山ひだが細かく描き込まれている。

これまた渋くかつ雄大な作品ですね。楽しみです。ありがとうございました。


村松 昭 
1940年千葉県生まれ。鳥瞰絵図作家。桑沢デザイン研究所などで、デザイン、油絵、リトグラフを学ぶ。1970年ごろより、独学で山や川の鳥瞰絵図を作りはじめる。絵本に『たまがわ』『ちくごがわ』『ちくまがわ・しなのがわ』『よしのがわ』『よどがわ』『いしかりがわ』『あらかわ・すみだがわ』がある。絵地図は『多摩川散策絵図』『四万十川散策絵図』『秩父・奥武蔵散策絵図』など、50点以上。東京都府中市在住。

この記事に出てきた本

バックナンバー

今日の1さつ

2024.12.21

子供に書店で選ばせたらこの本をもってきました。見た目の色づかいもかわいく、バーバパパの人柄もわかりやすく思いやりの気持ちを育てることができると思いました。(4歳・ご家族より)

new!新しい記事を読む