icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

作家が語る「わたしの新刊」

生と死の循環を描く生物画家・舘野鴻さん『がろあむし』

––––絵本を描くにあたって、いつも緻密な観察をされる舘野さんですが、ガロアムシの観察はどのようにされたのでしょうか。

先ほどもお伝えしたように、この虫のすむ環境は、大小の石ころが厚く積み重なった「ガレ場」と呼ばれる場所で、観察をするにはこれをひたすら掘るわけです(観察はその場所の管理者に許可をもらってから行います)。ヘッドランプを装着して、手グワを使って20〜80cmくらいまで掘ります。掘った断面をじっくり見ながら、そこでなにが起こっているかを観察しますが、透視ができるわけではないので、いつもその断面でしか観察ができません。地下の全体像を立体的、空間的に観察することは不可能です。

そこで、ガロアムシが実際にくらしている環境を再現するため、大工さんにお願いして、ガラスと木材を使用した密閉型の観察容器を作ってもらいました。その中を隙間ができるような大きさの石ころで満たし、さらにガロアムシをはじめ同じ場所にすむ大小の生きものを入れて飼育観察しました。ここでは、いくつかの食う食われるという関係が観察できました。ガロアムシの天敵を特定するのが1番の狙いでしたが、この装置でクロヤチグモがガロアムシを捕食することがわかりました。その関係をのちに再検証して、絵本の後半シーンに反映しました。

––––絵本では、ガロアムシが暮らす地下の世界で、たくさんの生、そして死の循環が行われていることが描かれています。解説の「循環しつづける命の境目はどこにあるのでしょうか」という言葉が心に残りました。

虫はいつも私たちの前に死体を晒しています。それを気持ち悪い、汚いといって掃いて捨てる気持ちもわかりますが、彼らにも生まれて死ぬまでの一生がありました。虫一匹はその一匹だけで存在していません。親がいて、食うものがあって、繁殖を繰り返しています。その舞台となっている環境は、その虫一匹のためにあり、逆に見ればその虫一匹なしに環境はありません。そこにある生き死にの明滅そのものが環境であり、そこには絶え間ない循環があります。

さて、掃いて捨てられた虫はどうなるでしょうか。鳥がついばんで持っていくかもしれませんし、アリが運んでいくかもしれません。菌の栄養にもなるでしょう。分解されて無機物になれば、雑草の栄養にもなります。雑草は虫の餌になり、虫は雑草の花を受粉させタネを結ぶことになるかもしれません。そうやって環境を部分的に破壊しながら生きた生きものですが、死ねばかならず循環資源の一部になります。生きることは死ぬことでもあります。生きものだけではありません。ガレ場の石ころだって、風化して粉々になって川を流れ、海の底にたどり着き堆積して、また地殻の奥に引き摺り込まれてマグマに溶けたり、再び陸へ持ち上げられたり……、プレート運動が続く限り循環するでしょう。

私が死ねば焼かれることになります。私の死体は、本来シデムシやセンチコガネの栄養になるはずです。なんの資源にもならないのは悔しいですが、どこか一部でも循環のなかに加えてもらえたらいいなと思っています。循環のなかにいることを自覚できたら、命の境目は無くなっていくように思います。

––––これから取り組みたいテーマがあればお聞かせください。

ずいぶん前から「ふんちゅう」を描きたいと思っていました。うんこを食べる虫のことで、ぼんやりと糞虫オオセンチコガネのことを描こうと考えていました。この虫は、ピカピカして丸っこくて短足で愛らしい、人気のあるコガネムシですが、調べてみるとなんとツチハンミョウ同様、生態がわかっていなかったのです。また貧乏くじでした。生態解明のために何年も観察を続けるのはもうこりごりだし、飼育するためにうんこを扱うのもイヤだしどうしようかと迷いましたが、結局、いま私はうんこまみれの生活となっております。

つい先日、4年にわたり研究していた生態はほぼ解明できました。そして次作『おおせんちこがね』の構成案を担当の編集者に見てもらったばかりなのです。この絵本はとある草原が舞台。うんこを求めてキラキラと飛び回るオオセンチコガネの暮らしから見えるものとは。

そんな絵本になります。2025年あたりに出せたらと思うのですが……きっとみなさんが忘れたころに、ひっそりと発売されていることでしょう。

––––最後に『がろあむし』の「ここをみてほしい!」というところを、ぜひ教えてください!

そうですねえ、まずは先入観なしに、素直に読んでいただきたいです。そして1年後、5年後、10年後にまた開いていただきたい。10年後にはおそらく、『しでむし』からのシリーズが6作揃っています。このシリーズは『がろあむし』のメッセージなしに成り立ちませんし、『がろあむし』のメッセージはシリーズで読んでいただいて初めて明瞭になるものと思います。いまちょうど道半ばというところです。このあとも全力で絵本制作に取り組んでまいります。どうぞ応援をよろしくお願いいたします。


舘野 鴻(たてのひろし)

1968年横浜市に生まれる。故・熊田千佳慕に師事。演劇、現代美術、音楽活動を経て環境アセスメントの生物調査員となり、国内の野生生物全般に触れる。その傍ら景観図や図鑑の生物画、解剖図などを手がけ、写真家・久保秀一の助言を得て2005年より絵本製作を始める。『つちはんみょう』で小学館児童出版文化賞を受賞。おもな絵本に『しでむし』『ぎふちょう』(偕成社)、『こまゆばち』(澤口たまみ・文)『はっぱのうえに』(福音館書店)、『あまがえるのかくれんぼ』(かわしまはるこ・絵、世界文化社)、『宮沢賢治の鳥』(国松俊英・文、岩崎書店)など。生物画の仕事に『生き物のくらし』(学研プラス)、『世界の美しき鳥の羽根』(誠文堂新光社)などがある。

1 2

この記事に出てきた本

バックナンバー

今日の1さつ

バス好きの子なので、バスのタイトルにひかれ手にしました。「ピンポン」とバスの案内で子どもがあきずに最後までくいついてみていました。絵も都会の景色から田舎の景色へとかわり、最後の山の影を走るバスと夕やけの姿が印象的で好きです。(3歳・ご家族より)

pickup

new!新しい記事を読む