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作家が語る「わたしの新刊」

生と死の循環を描く生物画家・舘野鴻さん『がろあむし』

幼少期から細密画の巨匠である熊田千佳慕さんに師事し、『しでむし』で衝撃的な絵本作家デビューをした、舘野鴻さん。小さな生物たちが全身全霊で「生」に向かい生きる姿を、緻密な画法で表現し、多くのファンを獲得してきました。あたらしい作品に取り組むごとに、数年にわたる観察からはじめる舘野さんの絵本づくり、最新作『がろあむし』について、お話を伺いました。


––––小学館児童出版文化賞を受賞した『つちはんみょう』より以前から取り組んでいらしたテーマだと伺いました。

ぎふちょう』の作画中に、『つちはんみょう』のモデル、ヒメツチハンミョウの生態観察を続けていましたが、どうにも生態解明の糸口が見えず、半ばあきらめて別の企画を考えたんです。それがガロアムシ、2010年でした。もともとこの虫には興味があって、なにしろ目立った特徴がない、という特徴が魅力でした。優れた機能やきらびやかな見た目を全て捨てて、丸裸で生き抜いているような気がして。潔さというか、壮絶さすら感じたんですよね。

結局、ヒメツチハンミョウの生態は無事に掴むことができて、2016年に『つちはんみょう』を出版しましたが、そのあいだもガロアムシの取材はずっと続いていまして、作画終了後も解説ページの内容を満たすために最後の最後まで取材が続きました。地下の生きものは、まだまだ分からないことがたくさんあるんですよ。

––––鳥の目から見たような町の俯瞰の絵から、森の中にある10cm四方くらいの小さな世界に飛び込んでいく冒頭の絵の構成が印象的でした。この視点にはどのような思いがこめられていますか。

ガロアムシが暮らすのは、洞窟やガレ場(大小の石ころが厚く積み重なった場所)の地下などの暗黒多湿な環境。そこにはガロアムシだけではなく、暗黒に適応した体を持つ小さな小さな生きものたちの暮らしがあります。その世界を覗き込むと、まるで別の宇宙を眺めているようです。しかし、そこは別世界ではなく、私たちのすむ地平と同じ世界にあります。『がろあむし』は、私たちが普段想像することもない彼らの暮らしと、私たち人間の暮らしを重ねて描きたかった。

虫をしつこく見ていると、虫を見ている自分が見えてきます。私は虫のように潔く生きていないし、人間は彼らになにも還元していないどころか、人間は彼らのすむ環境資源を搾取し続けているということに気づくのです。本来は私たちの残飯や糞や死体も彼らの資源になるはずなのに、それさえみんな燃やして奪っていますからね。この絵本の構成には、そんな思いも込めています。私になにができるんだろうと、いつも考えてしまいます。

––––『がろあむし』では、全編をとおして白い部分が全くなく、これまでの作品とはすこし違った絵の質量を感じました。絵の描き方、見せ方などで工夫された点があれば教えてください。

はい、お気づきになられましたか?(笑)偕成社ではこれまで3作描かせていただきましたが、どれも余白やテキストをデザインのひとつとして考えて画面を作ってきたつもりです。それがだんだんワンパターンになってきていたし、それにどうも手抜きをしているようにも思えて、限界まで描きもしていないそれまでの「わかったような」描き方がとても許しがたく思えたのです。

そこで『がろあむし』では、すべての画面を四隅まで描き尽くし、自分の作画の姿勢を問い直そうと思いました。もともと画家みたいな仕事をしていたので、テキストは絵の次、と考えていましたが、その考え方はまったく誤っていると気がつきまして、本作では言葉というものをしっかり見直すために、まず白紙にテキストだけを載せた原寸大ダミーを作ってもらい、短いテキストだけで読める本なのかどうかを確かめました。そのテキストに強力な破壊力を持つ絵を加え、絵本の持つパワーを最大限に引き出せないかと考えました。

担当の編集者とは様々に知恵を絞って作ってきましたが、それがうまくいっているかどうかはわかりません。しかしその試みの中で、私自身はたくさんの発見ができました。本作ではそのほかに、いくつかの試みをしていますが、そのお話は講演でしようかな。

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子どもが2歳になり、急にのりものが大好きになりました。この本は同じく車が大好きだった私の弟が小さい頃気に入って毎日読んでいたもので、私も一緒に見ていたのでとても懐かしかったです。もちろん子どももすぐに気に入り、毎日のように寝る前に読んでいます。(2歳・お母さまより)

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