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作家が語る「わたしの新刊」

かっぱが案内する雨の日のピクニックは、すてきなことがいっぱい!

ピンポーン! 雨の日、なおちゃんが玄関を開けると、そこには緑色のおかしな生き物が立っていました。びっくりするなおちゃんに、お母さんは「今日はかっぱさんとお留守番しててね。きっとすごーく楽しいから、いい子でね」といって、あわてて出かけていってしまいました。2人きりになると、かっぱは「今日はピクニック日和ですよ」といいます。「雨なのに?」なおちゃんがきくと、「雨だから!」

森の野花の一本一本まで丁寧に描き込まれ、かつスケール感のあるファンタジックな世界観。これぞ絵本の醍醐味!と感じる力作ですが、実はこれは作者のデビュー作。作者のむらかみさおりさんに、お話をうかがいました。


––––初めての絵本ですね! 完成してみていかがですか?

15年ほど前にワークショップでこの絵本のラフを作っていたのですが、出版には至らず、紆余曲折あって……15年越しに出版させていただけることになり、本当に嬉しいです。

––––ベビーシッターのようなかっぱの存在、湖の中にそびえる大木、樹上の遊び場などなど、新鮮なアイデア満載ながら、すっとその世界に入っていける自然なストーリーで、わくわくしながら読みました。このお話のイメージは、どんなところから出てきたのでしょうか?

なんとなく描いた落書きに、かっぱが朝の食卓に現れる絵があって、それをもとにかっぱが家にとつぜん来る話を思いつきました。あとは『雨の名前』(小学館)という本を読んで、雨の魅力にあらためて気づかされたので、雨の要素と組み合わせようと思ったところから始まりました。

––––タブローでもかっぱをモチーフにした作品がいくつかありますね。かっぱはお好きなんですか?

子どものころ水木しげるの「妖怪図鑑」が好きで、妖怪にはもともと親しみがあったのですが、その後早川司寿乃さんのイラストに出てくるかわいいかっぱや、司修さんの『ひかりのゆびわ』(偕成社/品切重版未定)に出てくる神秘的なかっぱに出会って、いつの間にか好きになっていました。

––––この絵本でとくに気に入っている場面はどこですか?

大きな木に船でたどりつくところです。巨樹が好きなので、とにかく大きく、スケール感を出したいと思って描きました。

––––苦労したところは?

ほとんどのページ、なかなか上手く描けなくて苦労したのですが(笑)、とくに空やアスファルトが、筆跡を残さずグラデーションを出すのに苦労して、何度も塗り直しました。

––––作中に「あめのひに こどもが おるすばんするときは、かっぱといっしょに すごすんですよ。だから、このまちの おかあさんは とっても あんしん」というかっぱの台詞があり、子育て中の身には「うらやましい~」と印象的でした。このアイデアは、どこから出てきたのでしょうか?

この町のかっぱと人は、山とふもとで棲み分けて別々に暮らしているけど、困ったときはおたがい助け合う……というイメージが先にあって、急用ができたときにかっぱが子守りに来てくれたら、お母さん、お父さんも助かるし、子どもも楽しいだろうなと思ったのが、きっかけです。

––––ご自身は、どんな環境で子ども時代を過ごしましたか?

北海道出身で自然がまわりに多く、田んぼで蛙やタニシを探したり、山や川に行って、同じ場所でも日々変化していく植物や生き物を観察したりするのが好きでした。

––––なるほど、そういうベースがあるからこそ描ける絵なんだなと納得です。こういう絵は、いつごろから、どういうところを表現したいと思って、描き始めたんですか?

20代前半に自分の絵が下手だと気づいてしまって、どうしようと悩んだときに、せめて心を込めて丁寧に描こう、と思いました。そこで、好きで興味がある植物や自然の風景がいちばん心を込められるな、と描き始めたのがきっかけです。土の中の微生物や草の一本一本、そこに潜む虫や生き物、風や温度、見えるものは勿論、見えないものにもきちんと心を込めて。そのうえに自分の感情をのせて描く。を目標に描いています。

––––好きな絵本はありますか? また、影響をうけた絵本作家さんはいますか?

好きな絵本は林明子『こんとあき』(福音館書店)、ジル・バークレム『小川のほとりで』(講談社)、オールズバーグ『ハリス・バーディックの謎』(河出書房新社)、安野光雅「旅の絵本」(福音館書店)長新太『つきよ』(教育画劇)などで、影響を受けたのは、アンソニー・ブラウン、ビネッテ・シュレッダー、早川司寿乃、司修、林明子さんです。

––––これから、どんな絵本を描きたいですか?

風景や植物などを描くのが好きなので、自然の描写と子どもの気持ちが重なるような絵本をいつか描いてみたいです。

––––楽しみにしています!


むらかみさおり
1980年北海道生まれ。イラストレーター。札幌大谷短期大学専攻科美術修了。2004年、第2回月刊MOE絵本イラスト大賞佳作受賞。2008年、イラストレーション第160回「ザ・チョイス」山口晃・選。2013年、第16回岡本太郎現代芸術賞入選。『あめかっぱ』が初めての絵本となる。
http://saorimura.me

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