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作家が語る「わたしの新刊」

ノグソ歴46年の著者がおくる! ウンコから見えてくるあたらしい自然論『ウンコロジー入門』

とあるきっかけから、現代のウンコの処理方法への疑問を持ち、長年ウンコを自然に返す生活を続けてきた、著者の伊沢正名さん。自らを「糞土師(ふんどし)」とよび、これまで書籍や講演会で「野糞」の意義を伝えてきました。『ウンコロジー入門』は、その伊沢さんの奥深い研究の集大成ともいえる1冊です。

ウンコを通して、自然との共生、そしてわたしたちの未来について考えてみませんか? 

伊沢正名さんにこの本への熱い思いを伺いました!


––––ウンコロジーという言葉について改めて教えて下さい。

この本で使っている「ウンコロジー」は、ウンコで考えるエコロジー(生態系)という意味です。

自然界には「食物連鎖」とよばれる「食う・食われる」の関係がありますが、その一方で「下りの食物連鎖」ともいえる「腐食連鎖」が自然の循環を支えています。そのキーワードである「ウンコ」が支える自然のことを書きたいと思い、この言葉を選びました

––––自然との共生を、ノグソというかたちではかっている伊沢さんですが、ノグソをはじめる前とあとでは、生きることの心持ちに変化がありましたか?

これはかなり大きかったです。それまでは、自然に命を返すことなんて、ぜんぜん意識していませんでした。

子どものころから自然が身近にあって、近所の野山で遊んだり、木の実やキノコ(チチタケ)をおやつに食べたりということをやっていました。自分が生きることの基盤が自然だったのに、中学、高校と進むうちにそこからだんだん離れてしまった。そうして、ついには人間不信におちいり、仙人のような生活にあこがれて、高校を中退しました。

その後、1970年に自然保護運動をはじめるのですが、その3年後の秋に、キノコの分解力のおかげで死んだ動植物やウンコが土に還り、新たな命によみがえることを知りました。そして暮れ近くに、し尿処理場建設反対運動のことを知ったのです。そのころは水洗トイレも下水道も十分整備されていなかったので、汲みとり便所のウンコをバキュームカーで処理場に運んでいました。その処理場の建設予定地の近くの住民たちが、建設に反対しているというものでした。

処理場ができれば、毎日のようにバキュームカーが行き来します。臭くて汚いからいやだ、という住民の気持ちもわかりますが、そこで処理するのは自分たちが出したウンコやオシッコです。自分で汚いウンコをしていながら、その処理は遠いところでやってくれだなんて、なんて身勝手なんだろうと憤りました。

しかし、そういうわたし自身も、トイレにウンコをしていたのです。わたしのウンコは、みんなが嫌がる処理場に運ばれて、だれかに迷惑をかけながら処理されているはず。自分もその無責任な人間のひとりだということに気がついて、トイレにウンコをすることの意味について、まじめに考えるようになりました。それで、年が明けた1974年の1月1日、人知れずひっそりとノグソをはじめたのです。

伊沢さんがノグソをしている林。木の枝が立っているところが目印になっている

ノグソをはじめたことで、それまでの人生はまるっきり変わりました。これまで自分が熱心に続けていた自然保護運動が、結局のところ人間中心のうわべだけのきれいごとのように見えてきましたし、もっと広い視野で、自然と共生していくために人間がすべきことについて考えなくてはと思うようになりました。

––––長年ノグソを続ける中でいちばんの発見はなんでしょうか?

ノグソ掘り返しの調査をやってみて、ヒトのウンコが自然の中ではどのようになるのか、その実態を知ることができました。

それまでも、ウンコが自然に還るというのは知っていました。しかし、それはただの概念で、具体的なことはなにもわかっていなかった。それが、100個以上のノグソを掘り返して調べていくうちに、ウンコがどんなふうに分解されていくか、またどんな生きものがくるかということが明らかになっていったのです。これは、わたしひとりの発見というよりは、人類の発見といってもいいくらい。(笑)

また、もうひとつの大きな発見だったのが、葉っぱでおしりをふく気持ちよさ。もともとは紙を使ってノグソしていたのですが、オイルショックのとき、とにかく紙をつかうのをやめようとおもって葉っぱでふくことをはじめました。でも、はじめてみると触りごこちのよい葉っぱというのがたくさん見つかって、あっというまに夢中になりました。これついては『葉っぱのぐそをはじめよう』(2017、山と溪谷社)という本にくわしく書いています。

––––今回の『ウンコロジー入門』の魅力をずばり語って下さい。

きらわれもののウンコが、いかに自然の役に立っているか。それを掘り返し調査の記録や、歴史的な事実も踏まえながら、とことんまじめにまとめました。これまでもウンコにまつわる本は3冊出版していますが、今回はウンコを科学的に深く掘り下げたことで、まさに教科書のような内容にできたことが、この本の大きな魅力だと思います。

ノグソ跡を掘ると、大きなミミズがあらわれた

ウマのフンなどにも生えるノグソ跡に生えるキノコ、バフンヒトヨタケ

『くう・ねる・のぐそ』(2008、山と溪谷社)のころは、ウンコの写真が袋とじになったりして、まだここまではっきりとウンコを表に出すことができませんでした。それがこの10年ちょっとのうちに、「うんこドリル」が出たりして、ずいぶん世間のハードルも低くなってきた。ウンコへの拒絶感がだいぶ少なくなってきたように感じます。40年以上ノグソを続けてきたわたしとしては、やっとここまで目を向けてくれるようになったか、という気持ちです。(笑)

調査のときには、においのチェックも欠かせない

––––全国で講演会などもされている伊沢さんですが、反響はいかがですか?

講演会をはじめた最初のころは、不衛生だとか、軽犯罪法にふれるなどという批判も多かったです。でも、最近は納得して帰ってもらうことが多くなってきたと思います。このあいだは姫路城のすぐとなりにある野里小学校で講演会をしたのですが、体育館での一般向けの講演会では、400人くらいあつまって、ほとんど批判が出ない。(笑)そして、3年生のクラスでのウンコ授業は、子どもたちの発言が飛びかう熱狂授業になりました。

自分自身がウンコのこと、ノグソのことをよくわかってきたから、ちゃんと話せるようになってきたというのが大きいですね。「糞土師」として成長してきたので、批判に対してもきちんと答えられるようになってきました。

––––災害時に水がとまっても、ノグソ習慣があればのりこえられるのは、心強いと感じました。とはいえ、やはりノグソはなかなかハードルが高い行為ですね。

たしかに、ノグソはいきなりしようと思うとハードルが高いと思います。しかし、野外でウンコをすることだけがノグソではありません。

たとえば、本の中でも取り上げた「バケツノグソ」なら、ベランダなどプライベートな空間ですることもできます。肝心なのは、土に還す、というところなので、なにも自然の中でおしりをまくる必要はないのです。

なにはともあれ、まずはやってみることが大事だと思います。頭でただ考えるのではなく、体をつかってやってみる。実際にノグソをしてみておくことで、非常時にも冷静な行動がとれると思いますよ。

––––ちなみに、バイオトイレについてはどのようなお考えを持っていますか?

もちろん大賛成です。ただ、せっかく肥料にしたけれど、それをまく畑がたりなくて燃やしてしまった、なんていう話も聞きました。なにやってんだよっていう。(笑)それではまるっきり無意味なので、肥料をうまく活用できるような環境づくりも大切だと思います。

––––この先、どんな未来をみていますか?

関野吉晴さんが企画している「地球永住計画」というプロジェクトがありますが、まさにわたしたちが目指すべきはそこだと思っています。これから地球に永住することができるように、わたしたちはなにをすべきか真剣に考えなくてはいけない。そのときに、ウンコが大きなカギになると思っています。

『ウンコロジー入門』を読めば、人間社会では蔑ろにされることが多いウンコが、自然にとっていかに大切かがわかると思います。循環型の社会について考えるとき、外側から考えるのではなく、自分自身がその中に入り込んで考えてほしいし、そうしていくための教科書として、この本のもつ意味はすごく大きいと思います。

––––最後に、「ウンコ」という言葉が大好きな子どもたちにメッセージをお願いします!

ウンコはたのしい、おもしろいという興味を失わないで、そのまま大人になってほしいですね。つまらない社会の常識とか良識に負けないように、しっかり便強してください!

––––ありがとうございました!


伊沢正名(いざわ まさな
1950年、茨城県生まれ。1970年より自然保護運動をはじめ、1975年から独学でキノコ写真家の道を歩む。以後、キノコ、コケ、変形菌、カビなどを精力的に撮り続けてきた。同時に1974年よりノグソをはじめ、1990年には伊沢流インド式ノグソ法を確立。これまでにしたノグソは1万4500回を超える。おもな著書・共著書に『日本のきのこ』、『日本の野生植物 コケ』、『くう・ねる・のぐそ』『葉っぱのぐそをはじめよう』、『うんこはごちそう』など多数。

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毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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