『やっぱりおおかみ』で鮮烈な絵本デビューをかざってから、40年以上にわたりたくさんの読者に愛される作品をつくりつづけている佐々木マキさん。今回は講談社出版文化賞を受賞した『へろへろおじさん』から2年ぶりとなる新作絵本、『いないいないばあさん』についてお話をうかがいました。
––––「いないいないばあ」と「おばあさん」をかけあわせたお話、このふたつのことばがくっつけられるなんて、思いもしませんでした! ありそうでなかったテーマです。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
マザーグースの『リトル・ボ・ピープ』を矢川澄子が「いないいないばあこちゃんのひつじがいない…」と訳したのを、うまいなあと感心して覚えていました。ずいぶん昔のことですが。それがいつのまにか、自分の中で「いないいないばあさん」とキャラクター化したのでしょうね。
––––マキさんのおばあさんはどんな方でしたか?
私の祖母は全盲でしたが、祖母のフトンにもぐりこんで物語や歌を聞くのが、小さい私は大すきでした。戦前禁止されていた、いわゆる“ネエ小唄”も覚えました。むかしの大衆芸能的教養は祖母からのものです。
––––カバーのそでのところに逆さのおばあさんがいて、上下逆かな?と思うのですが、中身をよんで納得。そして、後ろのカバーそでにはキョロキョロする男の子。すみずみまで、遊びごころのあるつくりですね!
カバーのそでが白いままなのは無愛相な気がして、何かサービスしたくなります。でも単に空白を埋めました、というふうにしたくないので、あんな具合になりました。
––––『やっぱりおおかみ』(福音館書店)で絵本作家としてデビューされてから40年以上という長いキャリアをお持ちのマキさんですが、絵本にはどんな思いを抱かれていますか? また、創作をつづけるなかで気持ちの変化などはありましたか。
「人は五歳にして既にその人である」と西洋の誰かが言ったそうです。「気持の変化」が全く無いことに、自分でもおどろいております。
ずっと絵本について思っていることは、読者(大人子どもを問わず)にとって上質のエンタテインメントであってくれたらいいな、ということです。
––––現在、東京・青山のビリケンギャラリーで『いないいないばあさん』の原画展を開催中です。そこでは、初期のマンガ作品にも通じるようなオリジナル作品も展示されていますが、これはどのようにして描かれたものなのでしょうか。また、絵本の絵を描くときとの違いなどはありましたか。
小型のスケッチブックに、日記をつけるように連日即興的に絵を描いていた時期がありました。2010年頃です。これは全く私的な動機からで、印刷製本刊行を前提とした絵本の絵と違います。何か自分の精神が(大げさですが)危機的な状態にあったのかもしれませんね。
––––読者の方にメッセージがあればお願いします。
小津安二郎の映画のどれかで、原節子と司葉子がなにか縁談のことで「品行はなおるかもしれないけど、品性は、ねえ…」と話す場面がありましたけど、私の作るものたちも時には品行がよくないかもしれませんが、品性だけは死守したいと思っておりますのでよろしく。
〈貴重な原画展が好評開催中です!〉
佐々木マキ『いないいないばあさん』絵本原画展
会場:ビリケンギャラリー
住所:東京都港区南青山5-17-6-101
会期:2019年4月6日(土)〜2019年4月21日(日)
佐々木マキ
1946年神戸市生まれ。マンガ家、絵本作家、イラストレーター。絵本に『やっぱりおおかみ』『まじょのかんづめ』『おばけがぞろぞろ』『へろへろおじさん』(福音館書店)、『変なお茶会』『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』『ぼくがとぶ』「ぶたのたね」シリーズ(絵本館)、「ねむいねむいねずみ」シリーズ(PHP研究所)、『あかいけいと』『あおいともだち』(偕成社)など多数。童話に『なぞなぞライオン』(理論社)、マンガ作品集に『うみべのまち』(太田出版)、エッセイ集に『ノー・シューズ』(亜紀書房)などがある。京都市在住。