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作家が語る「わたしの新刊」

足跡とはちがう、足がたのおもしろさ
監修・手がた/足がた図版 小宮輝之さんインタビュー

『だれの手がた・足がた?』は、動物の手がたや足がたを見て、なんの動物のものかを当てるクイズの本。実はこの手がた・足がた、本の監修も担当している、元上野動物園園長の小宮輝之さんが、40年にもおよぶ動物飼育の経験のあいだにこつこつ集めたものなのです! 小宮さんにコレクションをはじめた訳からお話を伺いました。

だれの手がた・足がた?

––––この本で紹介されている生き物の手がた・足がたは、小宮さんが動物園に勤務した40年間で集めたものの一部とうかがいました。そもそも収集のきっかけは何だったのでしょうか。

動物園勤務は40年間だったんですが、手がた・足がたをとりはじめたのは飼育課長になってからで、およそ20年間のコレクションです。飼育係長から飼育課長になって、実際の動物たちの飼育の現場を離れたとき、何かしたいなと思いはじめたことがきっかけです。

いろんな自然系の本で足がたが掲載されていますが、どれも絵に描いてあって、みんなどこかの本をまねたり、複写したりしたものだったんです。だったら自分で本物の足がたをとっておこうと。

当時、飼育の先輩がもともと足がたを収集していて、自分でも見よう見まねで取りはじめ、自分なりの工夫を加えながら、とりました。いまでは手がた・足がたのコレクションは、1000種を超えています。

足がたは、動物のグループや種類ごとにファイルに整理してある。

––––ご自身の性格は、コレクター的な傾向があったのですか。

小さいころは、昆虫採集に熱中しました。当時つくった標本箱はいまでも保管してあります。

––––そもそも、どうやって手がた・足がたをとるのですか。

みなさん、「どうやって手がた・足がたをとっているんですか。見せてもらえませんか?」と聞きますが、じつは一部の動物や鳥をのぞいて、死体からとっているんです。

飼育課長をやっていると、飼育日誌を毎日チェックします。すると、どんな動物が死んだかがわかるので、園の動物病院に出向いて、手がた・足がたをとらせてもらうわけです。

その動物たちは、標本にされる貴重種でないかぎり、死因が解明されれば処分されます。ぼくはその動物たちが、動物園にいた証としても、手がた・足がたを残したいと思ったわけです。

このように、ほとんどの場合、死体から取りますが、ときには手術をしたり、パンダなどのように人工授精をしたりするときに、麻酔をした動物からもとることもあります。野生の小鳥の場合だと、足輪をつけるために捕獲したものを、足輪をつけてから放鳥するまえにとったりします。

––––具体的にどのように足がたをとっているのですか。

手のひらや足の裏に毛がない生き物だと、墨汁を足の裏にぬって、紙を押しあてます。レッサーパンダやウサギなどのように毛がある動物のときは、黒のスタンプ台をあててインクをつけ、紙に押しつけます。そうすると、1本1本の毛がはっきり写ります。

足がたをとるために使っている道具。

病気で死んだラッコの足がたをとる。

インクがつきにくい鳥の足の爪は、つまようじで同じ位置に。

––––読者が自分でもペットのイヌやネコの足がたをとってみたいときも、そのようにすればよいのですか。

うーん、足がたを取ること自体が無理じゃあないかと思いますよ。どんなにおとなしいイヌ、ネコでも、ちょっとでも変わったことをされそうになると、いやがります。動物園で、どんなにがまん強い子でも、じっと足を紙につけていてくれることはありませんね。動物園の生き物で、素直に足の裏を見せて、足がたをとらせてくれるのは、ゾウとウマくらいしかありません。

––––手がた・足がたをとると、どんなことがわかりますか。

足跡と、足がたはまったくちがうものなんです。足跡は、地面の泥や雪の上を動物が歩いてついたもので、たとえばゴリラだと、手は「ナックルウォーク」といって、指を内側に曲げて指の背を地面につけて歩くので、足跡からは手のひらの様子はわかりません。でも手がただと、指の長さや、しわなど細かいところがわかるのです。

最初は、ただとって集めるのが目的だったんですが、とったものを近いなかまどうし並べてみると、共通の形があり、なるほど生活に適したものなんだと実感します。だから、数を集めることというのは、生き物の特徴を知るためには、とても大切なんだということがわかりました。

「近いなかまどうし並べてみると、共通の形があり、なるほど生活に適したものなんだと実感します。」

––––この本のおもしろさはどんなところでしょうか。

原寸で見せる足がたの本はあります。今度はクイズ形式にしたところが、おもしろいところです。足がたをじっくり見て、特徴に気づくと、その動物の生活が見えてきます。答えのページを見ると、なぜそのような手がたや足がたをしているのか、手足のアップ写真や、生態写真とともに解説してあり、生き物の適応のすばらしさに、おどろくはずです。

コウモリやアシカなど、まるで足に見えないつばさやひれでも、ちゃんとほ乳類の足の構造があることなども、この本を見るとわかります。

そして実際のフィールドでも、見つけた足跡と本の足がたを見くらべることで、種を特定することなどに利用してもらいたいですね。

––––いちばんのお気に入りの手がた・足がたは何ですか。

この本でも紹介してあるオオコウモリは、自分でも気に入っている足がたですね。ちゃんと皮膜と指の骨のあと、つめもわかります。これは沖縄の山原(やんばる)の環境省の施設で、冷凍庫に保管してあった個体を解凍して、とったものです。

それからアフリカゾウの足がたもいいですよ。これは宮城県仙台市の八木山動物公園の「ベンさん」というゾウが、きばが折れて、その治療中のときに、とらせてもらいました。ちゃんと足の裏を見せて協力してくれましたよ。

ベンさんの足の裏にすばやく墨汁を塗って・・・

墨汁が乾かないうちに紙を押しあてる。

構成・文を担当した有沢重雄さん(左)と。


監修・手がた/足がた図版 小宮輝之(こみや・てるゆき)
1947年、東京都生まれ。1972年、多摩動物公園の飼育係に就職。上野動物園、井の頭自然文化園の飼育係長、多摩動物公園、上野動物園の飼育課長を経て、2004年から2011年まで上野動物園園長を務める。著書に『日本の家畜・家禽』『ほんとのおおきさ・てがたあしがた図鑑』(学研教育出版)、『くらべてわかる哺乳類』(山と渓谷社)、『哺乳類の足型・足跡ハンドブック』『鳥の足型・足跡ハンドブック』『ZOOっとたのしー!動物園』(文一総合出版)、『べんりなしっぽ!ふしぎなしっぽ!』『シマウマのしまはサカナのほね』(メディアパル)、『動物園ではたらく』(イースト・プレス)などがある。

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