魔法、修行の旅、しゃべるネズミ、そして選ばれし者だけが読める本––––。このキーワードだけ聞いてもワクワクしてきませんか? 王道の本格ファンタジーが好きなすべての人におすすめしたい「青の読み手」シリーズ(小森香折 作/平澤朋子 絵)をご紹介します。
ある盗みの依頼から、物語が動き出す
物語の舞台は、荘厳な王宮がそびえたち、諸外国がうらやむほどの煌びやかな文化をほこる、ラベンヌ王国。王都では、着飾った貴族たちがこの世の贅をつくす一方で、路地に一歩足を踏み入れると、異臭が鼻をつき、庶民たちが貧困にあえぐ貧民街が広がります。
物語の主人公は、この貧民街でくらす少年、ノア。ノアは街の道案内のほか、盗みなどの汚いしごともこなして、なんとか食いぶちをつないでいます。
ある日ノアは、コクトーという男爵から「本を盗み出してほしい」という奇妙な依頼を受けます。その本があるのは、怪しい魔術をつかうという噂のある修道院。そこに忍び込み、僧たちの魔術に翻弄されながら辛くも盗み出した本は、選ばれし者〈青の読み手〉だけが読めるという魔術書〈サロモンの書〉でした!
ノアは、みずからが〈青の読み手〉かもしれない、という運命を背負い、黒魔術をあやつり、王国をのっとろうと画策するコクトー男爵との戦いにいどみます……。
ノアがたどりついた、世界をゆるがす真実とは?
男爵との戦いを終えたノアは、サロモンの書の教えに従い、修行の旅に出ます。道中、かつて魔女狩りがおこなわれていた町で、処刑された女たちの末裔、サンドラと出会い、彼女のもとで秘術の鍛錬に励む日々がはじまりました。
一方、王国の北に位置する大国・ザスーンで皇帝一家が惨殺される事件が起こり、ノアたちは背後に、世界の破滅をもくろむ者の存在を感じとります……。修業と経験を積んだノアは、ここまでの道のりで知り合った仲間たちと、大いなる陰謀をくじくために立ち上がります。
〈青の読み手〉とはいかなる存在か、そして世界の破滅をもくろむ黒幕はだれなのか。ノアがその真実にたどりついたとき、今まで見えていた世界がゆらぎます。
仲間の手助けで、立派な〈青の読み手〉へと成長していく
このシリーズの魅力は、ワクワクする王道ファンタジーであることはもちろん、登場する仲間たちがみな個性豊かで、それぞれのやり方でノアを気づかい、手助けをする心優しい人々だということ。
言葉をしゃべるネズミで、ノアの相棒のパルメザン。居丈高に見えて、じつは誠実な心を持つラベンヌ王女、セシル。切れ者で美男子の近衛騎士、アゴス。ノアの秘術の師となるサンドラ……。
そして、なんといっても、裏稼業でつちかった抜け目のなさと、弱き者に心をよせる優しさをあわせもつノア。さまざまな過去を背負って敵対していた人たちをも、持ち前の洞察力と口八丁で仲間にして、どんどん頼りがいのある〈青の読み手〉に成長していきます。
一章が短く、場面や視点が目まぐるしく変わっていくため、長い文章が苦手な子どもも、飽きずに読み進められるのが特徴です。
最終巻の最後のページをとじたとき、ノアとともに長い旅を終えたような、安心感と心地のよい疲労感がしみわたることでしょう。