季節をいっぱい楽しむってすてきですね。四季のある日本だからこそ、わたしも季節のうつりかわりを子どもたちと楽しみたいと思って保育をしてきました。
子どもたちはまちがいなく雪が好きです。これまで、真っ白な雪に心動かされる子どもたちの姿をたくさんみてきました。
でも、外に飛び出したのもつかの間、雪の冷たさに泣き出したり、雪で手袋までぬれると「なんでぬれた?」と不思議そうにしていたり。
ゆきだるまを作ろうとしたら、土がついて真っ黒になり「なんかちがう……」とがっがりすることも。子どもたちと雪って、最初はこんな風になることが多いようです。
子どもたちの手が冷たくてかわいそうだから外に出さない?
わたしの住んでいるところは、太平洋側で、雪はめったに積もりません。それでも雪が積もる日があると、子どもたちとどんなことをして遊ぼうか? とワクワクして、スキー用の手袋や帽子をタンスから引っぱり出して勤務先の保育園に向かったものです。
いざ、保育園に着くと、園長先生の指示で「保護者の方が雪で滑っては大変」と門から園舎までの通路がきれいに整えられ、「遊具で滑ると危ないから、子どもたちを外に出さないように」と子どもたちは部屋の中にいる。
そのようすを見て、「そんなことをしていたら、雪が溶けてしまう!」と、園長先生に抗議してみたこともありました。
わたし自身が園長として働いていた数年前にも、1歳クラスの担任の先生が、「子どもたちの手が冷たくてかわいそうだから」と、バケツに雪を入れて部屋にもっていき、子どもたちを遊ばせていたことがありました。
外に出さないようにしているのを見て、担任の先生に「子どもたちと一緒に外で雪に触ってみようか?」と話をしました。
どちらの先生も、保護者や子どものことをちゃんと考えているいい先生だったなあと、いま思い返すとよくわかります。
でも! 子どもより楽しんで、汗を流しながらゆきだるまを作るわたしのような保育者もいてもいいと思うのです。
雪を前にした子どもたちの反応を、ちょっと観察してみるのがおすすめ。
どの園でも、雪が降ったら、子どもたちにどんな経験をしてもらいたいかという指導計画を立てています。また、雪国の保育園ではそりあそびや、スキー、かまくら作りをしている報告があり、うらやましいと思うこともあります。
雪下ろしをしたり、雪かきをしたりするおとなの姿を生活の中で見ることも、子どもたちにはとても意味のあることだと思います。雪のある暮らしの大変さと知恵を、子どもたちがおとなの姿を見ながら感じていくのですね。
雪の冷たさやきれいさ、不思議さ。雪の魅力は、子どもたちが自分で見つけだしてくれます。
雪を前にしたときの子どもたちの反応を、ちょっと観察してみるのがおすすめです。子どもが「自分で感じる力」は、黙って見守る大人のまなざしが育ててくれるのだと思います。
子どもたちに読んでもらいたい雪の絵本。
雪が降らない地域の子どもにも、雪のたくさん降る地域の子どもにも読んでもらいたい、雪の本がたくさんあります!
『ゆき』(ユリ・シュルヴィッツ・作、さくまゆみこ・訳、あすなろ書房)
町中がどんよりと灰色な景色。そして、灰色の空からひとひらの雪がまいおりてくる。一人の男の子が「ゆきがふっているよ」と言うのだけれど、おとなたちは空を見上げることもない。そんな中、男の子がうれしそうに外に飛び出していく。雪があとからあとから降り、マザーグースの世界の登場人物たちも飛び出してきて、雪と男の子と犬が踊る。男の子と一緒に「わーい、雪だよ!」とさけびたくなるようなすてきな1冊です。
『ゆきのひ』(エズラ・ジャック・キーツ・作、木島 始・訳、偕成社)
朝起きると、雪がつもっている。主人公のピーターが雪の中を歩く。雪がうれしくて走り回るのではなく、自分がつけた足跡の形を変えてみたり、棒を持ってすじをつけてみたり、木につもった雪を落としてみたり。子どもの頃の感覚を思い出させてくれるような、雪に向き合う男の子の姿が描かれている。雪の冒険をお母さんに話す場面がとてもいい。雪のだんごをポケットにしまっておいたのに、消えちゃって悲しくなるピーターが愛おしく思えます。
『ゆき』(文部省唱歌、はた こうしろう・絵、ひさかたチャイルド)
「ゆきや こんこ あられや こんこ」の歌を口ずさみながら、ページをめくることができる絵本。雪のない地域の子どもたちは、「やまも のはらも わたぼうし かぶる」という歌詞や、「かれき のこらず はなが さく」という歌詞がどんなことを意味しているのか、わからないかもしれない。でもこの本では、枯れ木に雪が花が咲いたように積もっている絵が描かれている。歌いながら絵本を読むのは、とても楽しい時間です。
『おかしなゆき ふしぎなこおり』(片平 孝・写真 文、ポプラ社)
雪が降ると町のようすがすっかり変わり、思いがけない形をつくりだす。この絵本は積もった雪のようすを写真で撮っているのだけれど、どの写真も明るい光と雪のコントラストをうまく表現していて、子どもたちは「わー、すごい!」「きれい!」と言いながらページをめくっていく。雪を初めて見た子どもたちの目にはきっと、こんな風に雪の不思議さが次から次へと飛びこんでくるのだろうなあ。
『ゆきのひのおはなし』(かこさとし・作、小峰書店)
あたり一面、真っ白の雪の日に、さあちゃんとゆうちゃんが動物たちと雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、雪の上で相撲をとったりします。雪があるだけで、どんどん遊びが広がります。かこさとしさんらしい表現で「しろい ゆきが しゃんしゃんふったり こんこんつもったり ちらちらやんだり」と書かれていて、声に出して読むのが楽しい。夜になると、さあちゃんたちが作った雪だるまが動き出します。雪らしく遊ぶ姿がなんともおもしろい!
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。