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作家が語る「わたしの新刊」

大学時代に描いた1枚の油絵から生まれた絵本『すけすけのりもの』なかしまじゅんこさんインタビュー

2022.07.14

『すけすけのりもの』で絵本作家デビューしたなかしまじゅんこさん。かけると乗り物がすけすけになる! という魔法のめがねを題材にした絵本です。このユニークな発想の原点は、子どものころの空想、そして大学時代に描いた1枚の油絵でした。発売を記念して、なかしまさんにお話を伺いました。

初めて絵本を作られて、いかがでしたか?

とても緊張しながら、絵を描きました。絵本のコンペに出したりなど本格的に活動しだしてからもう10年ほど経っていたので、いざ本番の絵にとりかかるとなって、慎重になりすぎました。

でも、細かいところも焦って描くことはせず、登場人物の髪や肌の色を1人1人変えたり、同じ人でも次のページで動きに変化を加えたり、作中の架空のアニメのキャラクターもストーリー設定をしてから描いたりなど、じっくりイメージを膨らませて、こだわって完成させることができました。

とてもユニークな発想から生まれた絵本だと思いました。どのようなきっかけで思いつかれたのでしょうか。

子供のころから、通学中によく飛行機をながめていました。「飛行機だったら数秒で学校までいけるのかな? 自分用の飛行機がほしいな」などと思いながら。そして高校生のころ、ふと気づいたんです。あの中に小さな人間がならんで座っているのか! と。そして、2011年の大学1年のときに、「飛行機」という油絵でそれを表現しました。お気に入りの作品で、このアイディアの絵本を作りたいとずっと思っていました。

じつは電車も、高校のころに、「先頭の運転士さんのうしろには大勢の人たちが乗っているんだ!」と気づき、モノクロで人間だけの絵を描いていました。

細かく見ると、1人1人の登場人物の人生や生活が垣間見えるようで楽しいです。なかしまさんお気に入りの登場人物はいますか?

全員思い入れがあるのですが、選ぶのなら、エスカレーターとエレベーターに乗っている男の子です。のぼっているので服のロゴは「up up」。エスカレーターでは指をトコトコさせて遊んでいるのに、エレベーターではこわがって足をジタバタさせています。愉快な子だな~と、すっかりお気に入りになりました。

ほかの人たちも、じっさいに見たことのある人を参考にしたりしています。以前、私が働いていたテーマパークに毎週1人で来るおじいさんがいたのですが、遊園地の場面に連続して出てくる男の人(シミズさんと名づけました)は、そのおじいさんのことを思い出して描きました。

モーターボートの船長さんは、一度ガイドしてもらったことのある潜水歴50年以上のベテランダイバーさんのことを少し思い浮かべながら描きました。……と、登場人物について話しだすと、止まらなくなります!

ふだんから、人間観察はお好きですか?

好きなのか考えたことはなかったのですが、人間にかぎらず、つねに絵のネタになりそうなことがないかまわりを観察していて、見つけたときはすごくうれしいので、好きなんだと思います。とくに意識しなくても、細かいことによく気づくほうで、友人にも「前髪2mm切った?」「柔軟剤変えた?」などと聞いたりしています。たまに外しますが。そういった日々の観察を、この絵本ではたくさん盛りこむことができました。

制作過程で楽しかったこと、苦労したことがあれば教えてください。

描いていて楽しかったのは、人です。絵の具でこれだけ多くの人の色を塗るのは大変でしたが、紙パレットがカラフルになっていき、それも見ていておもしろかったです。

また、人との出会いも楽しかったです。出てくる乗り物は、1つ1つ調べたり取材をしたりしてから描きましたが、メリーゴーランドの人々の表現に苦戦したときも、イメージの近いメリーゴーランドや観覧車のある千葉のマザー牧場まで1人で行きました。電車が遅れてバスに乗れなくて呆然としていたところ、同じように立ちつくしているカップルがいたので、声をかけ、タクシーで相乗りして向かいました。絵本を楽しみにしているといってくださり、励みになりました。ほかにも、交番でおまわりさんに、制帽でパトカーに乗ることはあるのか質問したり(あるそうです)、江ノ島までモーターボートに乗りにいったり、色々しました。

絵を描く作業としては、トレースがとくに大変でした。主線をなんども描くので……。次回はもっと早く描けるよう工夫したいです。

下絵をトレーシングペーパーに印刷し、裏を色鉛筆で塗った後、ボールペンで転写。

細かいところは芯の細いシャーペンで転写。

転写した線をシャーペンで整える。

ミリペンで何度か、主線を描く。

絵の内容としては、同じ人や場所が何度も出てくるので、すべてのつじつまを合わせて描くのがけっこう大変でした。

制作にはどのくらいかかりましたか?

お話作りに取りかかってから出版まで、およそ7年かかりました。2015年、パレットクラブスクールの絵本コースにかよっているときにダミー本や絵をいくつも作り、授業や卒業制作展で発表しました。その後、偕成社で見ていただき、ダミー本のラフが完成。原画の下描きから仕上げまでは、約2年半かかりました。

ダミー本。右下が最終の形。いちばん作りたい形で仕上げることができた。

このほかにも、いろいろな描きかたや表現方法を試した。

2年半前というのは、コロナの感染者が日本でも出はじめたころでした。本画を描きすすめながらも、はたして、この絵本のような日々に戻ることはあるのか?と不安でしたが、希望をもって人々を描くことに決めました。すると、ふつうだと思って描いていたラフの人々の日々が、キラキラと愛おしいものに感じました。

最後に読者にメッセージをお願いします!(今後の構想など)

なんの予定のない日でも、外に出たら楽しい発見があります。絵本を読んだあとに、じっさいに町の乗り物を見て、すけすけにして遊んでもらえたらとっても嬉しいです。

次回作も、今作のような日常+想像の絵本を作りたいと思っています。

また、絵本以外にも、壁画や人物画や絵日記を描いたり、立体やミニアニメなども作ってみたいです。

この1作目が、みなさんにどう受け止められるか緊張していますが、どうぞよろしくお願いします。

ありがとうございました!


なかしまじゅんこ
1992年、東京都生まれ、千葉県在住。
2015年、女子美術大学芸術学部洋画専攻卒業。在学中より絵本を描きはじめ、本作がデビュー作。
空をとぶ飛行機を見たときにふと思いついて描いた1枚の油絵から、この絵本が生まれた。

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