のです……。きょうは、藤重さんのデビュー作で、日本児童文学者協会新人賞を受賞した本作をご紹介します。
「日小見市」はどんな町?
日小見は、しずかな古い町です。北西部には、古呂田山を中心とした山々が連なり、龍田良川が流れています。町の中央には日小見城、そのまわりには古い街並みが残っており、江戸時代の気分を味わえるとして、日帰りの観光客で賑わっています。
しかし、どこにでもあるような城下町と思われている日小見には、実は知られていない話がたくさん眠っているのです。
日小見市は、この本の中の架空の町ですが、まるで本当にある町のように思えてきます。この地図を見ながら、読んでみてください。
今に伝わる話とはちょっと違う、5つの「ほんとうの」話
では、江戸時代の日小見では、どんなことが起きていたのでしょうか。この本では、5つの話が登場します。
一の巻は、「立花たんぽぽ丸のこと」。日小見市の北西部、古呂田山のふもとにある忠明院地元で「たんぽぽ寺」という愛称で呼ばれています。実は、この侍が使っていたという刀、その名も「たんぽぽ丸」は、相手を切ろうとすると、鼻の頭にぽっとタンポポが咲くというふしぎな刀で……?
たんぽぽ丸をふしぎなサルから譲り受け、のちに日小見藩の六代目城主・忠明公に仕えた侍、立花六平太の物語が語られます。
二の巻は、「草冠の花嫁」。現代では縁結びのご利益が有名で、草冠のお守りや名物のいなりずしがテレビの旅番組でも取り上げられる神社、冠稲荷神社の物語です。
記憶を失って倒れているところを助けられ、豆腐屋で働いている清七。清七の作る油揚げは評判が良く、店には行列ができます。そんなある日、店にやってきたのは、小さな女の子。屋敷で待つおじょうさまのために、油揚げを買いに来たといいます。その子が頭に乗せている草冠をみて、清七はおどろきました。記憶のない自分が唯一覚えている、草冠の編み方と同じだったのです。
草冠を編んだおじょうさまに会えば、何かわかるかもしれないと、屋敷を訪れる清七。おじょうさまと対面し、話しているうち、記憶がよみがえっていきます。
「そうだ、わたしは……わたしは、化けていたんだ。」
このように、現代の日小見の町に残る言い伝えや建造物にかくされた、「ほんとうの」話が語られます。ありふれた町に、いったいどんな話がねむっているのか? ぜひたしかめてみてください。
日本児童文学者協会新人賞を受賞、ホワイト・レイブンズにも選定
作者の藤重ヒカルさんは、これがデビュー作。絵の師匠であり、藤重さんに童話を書くことをすすめた、飯野和好さんが挿絵を担当しています。また、この作品は2017年の日本児童文学者協会新人賞を受賞したほか、ミュンヘン国際児童図書館が選ぶ「ホワイト・レイブンズ」にも同年に選定されました。
日本児童文学者協会新人賞の選評によると「巧まざるユーモアと豊かな物語性が感じられ、文学性、構成力の点でもすぐれている」との声が多く、全員一致で授賞が決まったそうです。
読書の秋、どこにでもあるようで、どこにあるかは誰も知らない、ふしぎな町の物語に浸ってみませんか?