本をひらくと現れるハンドルを握って、運転手の視点から読む絵本「たんけんハンドル」。やおいひでひとさんによる、楽しくて新しいアイデアがつまったシリーズです。
やおいさんは学生時代に子どもたちとのワークショップ活動を始め、出会った子どもの数は、なんとのべ5万人以上! 子どもたちとの交流も、この絵本の誕生に大いに生かされているのだそうです。やおいさんにお話を伺いました。
––––本がハンドルになるというユニークな設定は、どのように思いつかれたのですか?
小さい頃、大好きなおもちゃがあったんです。 運転席のおもちゃで、ハンドルとレバーとメーター、パネルがついていました。 パネルは影絵になっていて、ハンドルに合わせて動く車と背景は道路と街路樹だったかな。今のゲームみたいにリアルな映像が映るわけではないけれど、当時の僕にとって、それはもう完璧な運転体験なのでした。
ある時、それをふっと思い出しまして。 あの面白さって何だったのかなと考えてみると、 ハンドルを動かすことと影絵をきっかけに想像することだと気づきました。 その時に
「あ! それって絵本に近いぞ」
と思ったんですね。 それで、あの感覚を絵本で形にできたら面白そうだなと。
––––全国でワークショップをされているとのことですが、どんな内容で行われていますか?
内容は色々ですね。ただただ自由に好きな絵を描いたり、廃材で工作をすることもありますし、テーマを設けて、空想の生き物や乗り物とか、魔法のめがねやカバンとか、海や森、お家やお店などなどなんでも作ります。 みんながそれぞれに作品を作って、集まると一つの世界ができるのが面白いなと思います。
––––「たんけんハンドル」も、制作中、ワークショップに参加している子に見てもらったとのこと。エピソードがあれば教えていただけますか。
エピソードはたくさんありますね。 ある保育園で、ワークショップの後に「たんけんハンドル」の試作品をみんなで読んだんですけど、途中で一人の子がスッと手を前に出してハンドルを持つフリをしたんです。 そしたらそれをみた隣の子も手をスッと、また隣の子もスッと、というふうにワーッと広がっていって、みんな自分のハンドルを想像しながら手を動かしてました。 あぁ、こんな風に絵本の中に入ることもできるんだと思いました。
また別のときは、参加者の中に、当時7歳の友人がいたのですが僕の作ったラフを見て、「ねぇ。これ、もっと面白くしてあげようか?」と言って、ペンで手直しされました。ちゃっかり作者名に自分の名前も書き足して(笑)。僕の描いた絵が、彼の想像や線と地続きなんだと思うと、それも嬉しかったですね。
もう一つだけ紹介してもいいですか(笑)。今、ワークショップ以外にこどものアトリエを主宰しているのですが、そこに来てるこどもたちと読んでいた時のことです。 せんすいかんの試作を読んでいたら、一人が「あ、いいこと思いついた! 待って!」と言ってイスを並べて、船内を作りはじめたんですね。 そして、また別の子は「そうだ! わたしピヨちゃんたちも連れて行こう」とその日に自分の作った作品も一緒に並べたりして、文字通り即席せんすいかんができあがりました。すみをはかれた時は「せかいじゅうのタオルをあつめて〜、えいっ」と言って窓を拭いたり、途中で息を止めて船外へ泳ぎに行ったりと、独自の構成や演出が面白い。
そんな風に子どもたちの頭の中にどんどん膨らんでいく想像の深さといいますか、反射神経みたいなものに感心しました。と同時に、その姿を見ながら、
「そうそう! 自分があのおもちゃで好きだった感覚もこれだよ!」
とちょっと感動しました。
––––「たんけんハンドル」シリーズのおすすめの楽しみ方はありますか?
一番は、自由に読んでもらえればいいですね。 静かに読むのも、ワイワイ読むのも楽しいものですから。
その上で、おすすめの楽しみ方をあげるなら、やっぱりハンドルを持って動かしながら読むことですね。
乗り物の行きたい方向へ四方八方動かしたり、はやく、ゆっくり動かしたりしながら臨場感たっぷりで読んでみてください。ページによっては振動で揺れたり、近くなったり遠くなったりもいいですし、キーンとか、ボボボーとか、効果音の演出も楽しいですよ。
さらには、アトリエのこどもたちみたいに船内を作っちゃったり、便利な機能をつけたしちゃったりとか、なんでもありですね。
絵本なのにそんなことしていいの? と抵抗のある人もいるかもしれませんが、いいんです。これは絵本ですが、この世界に入り込んだら、そこは運転席ですから。たんけんハンドルをきっかけに、それぞれのたんけん世界を満喫してもらえたら嬉しいです。
––––ありがとうございました!
やおいひでひと
1983年生まれ、茨城県つくば市出身。学生時代に子どもたちとのワークショップ活動をはじめ、大学卒業後「こども環境デザイン研究所」をひらく。全国の保育所や幼稚園、小学校を中心に出張ワークショップ、保育・教育関係者に向けた講演・研修を行っている。また埼玉県越谷市にアトリエをかまえ、地元の子どもたちの工作室「コトリエ」も運営している。一児の父。