戦後70年以上がたったいま、「戦争」の体験をつたえられる方が年々少なくなっています。体験者の話をきくことができないことは「なぜ戦争が良くないのか」という質問への答えをはっきりと描けなくなることにもつながります。今日紹介する絵本は、その「なぜ」という質問に、ひとつの答えを提示する作品です。
ピューリッツァー賞作家が筆をとった理由とは
作者のアリス・ウォーカーは、差別をうける黒人女性の姿を描いた『カラー・パープル』で、ピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した作家です。作品はスピルバーグにより映画化もされています。
『なぜ戦争はよくないか』(アリス・ウォーカー 作/ステファーノ・ヴィタール 絵/長田弘 訳)は、アリスが、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロ攻撃に対する、アメリカの報復の現実を知り、衝撃を受けて書いた作品です。
そこには、平和だった毎日の暮らしを破壊され、親を亡くし、さまよう子どもたちの姿がありました。「戦争」が何なのか、わからないままに巻きこまれ、傷つく子どもたちをこれ以上増やしたくない––––。「戦争が、姿をたくみに隠し、人びとの平和な日々にしのびよる––––そのおろそしさを伝えることが、子どもたちを守るひとつの手だてになると信じています」と語るアリス・ウォーカーが、子どもたちに向けて、筆をとった作品です。
そのアリス・ウォーカーの文章に絵で応えたのは、イタリア生まれの作家、ステファーノ・ヴィタール。コラージュを駆使した斬新な手法で、アリスの語りを「目にみえる」かたちで表現しています。
子どもにわかる言葉で、抽象的に、深く、戦争を解き明かす
本を開いてみると、子どもにもわかるやさしい言葉で、語りかけるように、戦争とはいったいどういうものか、ということが書かれています。物でもなく人でもない、実体のない戦争がもたらすおそろしさを、抽象的に、けれども、深く解き明かしていきます。
戦争は
戦争の目で
ものを見るのよ
油を
ガスを
マホガニーの木を
そして
地中にある
あらゆるかがやくものを
窓のそばにいる
若い母親を
心に思いうかべてみて
子守唄をうたいながら
若い母親はうれしい
赤ん坊は
母親の黒い巻き毛を
指でるくるまわしながら
おっぱいを飲んでいる
こういう大切な時間なの
人が
なくしてはいけないものは
戦争がどういうものかは一言でいいあらわすことは難しいですが、この絵本では、私たちが大切にしなければいけない、大切にしたいものを、戦争がどのように変えていくかという表現で、戦争を語っていきます。戦争を体験していない私たちの感性にうったえかけることで、深く戦争の姿を伝える1冊です。
この夏、ぜひ親子で読んでみてください。