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〈書評〉

〈書評〉
「シロガラス」シリーズ
佐藤多佳子・著 

「シロガラス」シリーズ
(5)青い目のふたご

早く読みたい、でも、読み終わりたくない」
上橋菜穂子/作家

 『シロガラス』を読むたびに、いつも、
「う~! こういうの書きたかったんだよなぁ。佐藤さんに先にやられちゃったなぁ」
と、思います。
 佐藤さんと私は同い年。
 好きだった物語も、かぶっていることが多くて、性格の違う多くの子どもたちが活躍する『ツバメ号とアマゾン号』シリーズや『カッレ君』シリーズなど、ふたりとも大好きなのです。
 子どもたちが大冒険をする物語は数多く書かれていますが、私が傑作だと思う物語は、すべて、「物語の躍動感と突き抜けた感じ」と「子どもたちのリアル」が生き生きと連動しています。
 これ、とても難しいことなんですよ。複数の、性格が違う子どもたちをリアルに描き分けながら、物語としての躍動感を生み出していくというのは、本当に難しいことなんです。
 子どもたちが実際にできること、子どもたちにとって大切なこと、子どもたちの視線、子どもたちの視野……そういうものが本当の意味でしっかり書かれていないと、物語は嘘っぽく、安っぽくなってしまう。
 子どもたちが、現実の暮らしの中で、本当に嫌だ、哀しい、つらいと思っていることを、子どもたちが決して持ちえないスーパー・パワーで解決してしまっては意味がない。
 一方で、「リアルであること」に気を取られ過ぎると、物語の命である大らかな「ありえないけど、面白いこと」、突き抜けた躍動感が妙に縮まされてしまう。
 佐藤さんは、この匙加減が天才的に上手いのです。
 『シロガラス』の主人公たちは、各自様々な超能力を身につけていくし、これを発揮する瞬間は実に爽快。これまで気づかなかったことに気づく驚き、ワクワクする感じ、危険なドキドキ感もあって、これぞ物語の醍醐味! という気がします。
 その一方で、彼らがそれぞれ心に抱えている様々な悩みや葛藤は、超能力では解決できない。むしろ、人ができる最良のことを成し得たとき、超能力もまた、彼らにとって恵みになるようです。
 ひとつひとつ謎を解いていく、その姿も過程にも、作者にとって都合がよい嘘がない。だから物語が長くなっちゃうわけですが、でも、本当に面白い物語は読んでいる間が幸せなので、長い方がうれしいものです。
 先が知りたい。早く読みたい。でも、読み終わりたくない。
 そう思う物語こそ、本当に面白い物語なのだと私は思っています。
 『シロガラス』の五巻目は、いよいよ過去がうっすらと見えて、「危険」の本体が姿を現し始めます。
 どの子も、その子なりの精一杯で、そして、友だちのことを思いやりながら、「危険」に向き合っていく。
 早く先を知りたい。でも、この子たちの物語をいつまでも読んでいたい。
 佐藤さん、他の仕事は全部放り投げて、『シロガラス』の続きを早く書いて!!

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毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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